情報処理技術者試験をはじめとして,およそ知識と経験を問う試験では論述問題が必ず出題される。資格試験以外にも就職試験や卒業論文,レポート等においても,論述形式を用いて技能や研究成果,知識の質・量等が問われる。一般的に見て総合的な判断が必要されるときほど,論述した内容を見て評価することが多くなる。皆さんが将来,社会で正しい評価を勝ち得て行くには,論述を如何に効果的に行うかのテクニックを学生時代から身につけていることが望ましい。
しかしながら論述の書き方について訓練されていない人ほど,往々にして(必ずと言い換えてもよい)「論述の仕方より内容を評価すべきだ」との考え方に陥る。そのような者に限って内容は「お粗末」であり,何を述べようとしているのか全くわからないことが多い。
スポーツであれ,音楽であれ,まず「基本」があって,その上で初めて個性やオリジナリティが発揮される。論述においても同様であり,記述形式の基本や記述上の注意,論旨の運び方等の基本的なテクニックをマスターした上ではじめて内容が評価される。もし記述形式すら守られていない文章であれば読んでさえもらえないこともある。
以下は,論述する上で守るべき基本的な事項と留意点について,最低限の事項を解説したものである。これらの点に十分留意して論述すれば,多少内容的に不足していても一定の評価を勝ち得ることが期待できよう。
論述の基本は形式(かたち)を覚えることからはじまる。以下に示す記述形式は,情報処理振興事業協会(IPA)の「ドキュメント規約」の概要を抜粋し,さらにそれらを要約したものである。これらの形式にしたがって,意識せず「習慣」として記述できるようになることが,最初のステップである。
【注】 IPAは通産省の外郭団体であり,IPAのドキュメント規約(A4版約200ページ)は,情報サービス企業におけるドキュメント作成規準として標準的な役割を果たしている。
章節項の番号の振り方に関する基本として,章,節,項は,以下に示すように「.」で区切り,番号付けする。また,章・節・項番号とのタイトルの間には,1文字あける。
1. 章タイトル
1.1 節タイトル
1.1 項タイトル
2. 章タイトル
章,節,項はまとまった内容を整理して記述する上で基本中の基本であり,これすら守られてないものは単なる「文の殴り書き」だと言っても過言ではない。
(ただし,内容的に関連のない文章の集まりのときには,あえて章,節,項を付ける必要は特にない)。
項以下をさらに分類して記述する場合には,以下の順に細分類項目を用いる。
(1)細分類項目タイトル1
(a)または(ア)
@または (i)
(2)細分類項目タイトル2
単に幾つかの事項を列挙する場合には,上記の順番に従わなくてもよい。
むしろ列挙する項目の先頭に置く特殊記号(「・」,「●」,□)で十分である。これらの特殊記号は,任意の位置に使用できる。
内容の記述に関して,文章を見やすくするためのインデンテーションにも規則がある。次の規則にしたがって記述する。
(1) 章・節・項の番号は,左端に揃える。例えば,以下のように記述する。
1. XXXXXXXX
1.1 XXXXXXXXXXXX
(2) 細分類項目は,章・節・項番号より,1字下げた位置から記述する。
(3) 文の書き出しは,章・節・項の番号,あるいは細分類項目の先頭位置から1字下げた位置からはじめる。
2行目以降は,先頭と同じ位置からはじめる。例えば,以下のように記述する。
1.1 XXXXXXXX
XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
(4) 項目の列挙の場合は,以下のように書き出し位置は揃える。
(1) XXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
(2) XXXXXXXX
XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX
用語の使用方法にはいろいろな制限があり,すべてを紹介することは難しい。ただ論理的な文章を書くには,最低限以下については気をつけるべきである。
(1) 「と」,「および」
いろいろな事項を並び上げ,記述するときの接続詞として「と」と「および」があるが,幾つかの事項を併記する目的の接続詞である「および」の方が結合度は高い。例えば,括弧を結合度の強さとすると,
「AとBおよびC」は「Aと(BおよびC)」と同じ意味である。複数の事項を「と」と「および」を使って記述するときは注意を要する。
(2) 「と」,「または」
例えば「AとBまたはC」。この場合も「Aと(BまたはC)」と同じ意味であ
る。「または」は代替の意味を表わす接続詞であり,直前のBに代ってCであってもよいとの意味である。
もし(AとB)の両方をCが代替する「(AとB)またはC」の意味を表わしたいときには,「AとBかまたはC」とする。
(3) 「ならびに」
「と」,「および」と同じような感覚で使用されるが間違いである。「と」,「および」は,並び上げる事項が同じカテゴリに属するもののときに使用され,「ならびに」は,並び上げる事項が異なるカテゴリ(あるいは異質)のときに使用される。
例えば,以下のとおり。
[例1] 「メモリーとCPU」
[例2] 「コマンドが"OK"および"RETURN"のとき・・・・」
[例3] 「契約条件が満たされていること,ならびに法律改定がないこと・・・」
(4) カタカナ用語
コンピュータの世界ではカタカナ用語が非常に多い。そのため,カタカナ用語の標準的な表記をいろいろ決めており,情報企業ではこのような標準的な表記を遵守している。しかしときどき新聞や専門雑誌で間違った表記を用いたものを目にする。そのようなとき,記事を書いた記者は情報技術に関して素人と見てよい。
[代表的なカタカナ表記]
(5)語調
表現は必ず「である調」であること。「・・・です。」とか「・・でございます。」
は論述においては用いない。
同じ内容を述べる当たっても,理解しやすい書き方とわかりにくい書き方がある。 その原因の大半は,読み手となる人が文章を理解してゆく過程を無視して次のような配慮を行わないからである。
人は一度に多くの事項を記憶できない。したがって,一つの文の中で少なくとも3つ以上の事項を述べるときには,箇条書きにする。
箇条書きにすることによって,どの程度の事項が述べられているかがあらかじめ予測することができる。これは,文の途中でどの程度の内容を記憶してゆかなければならないかの心理的負担を軽減する。その分,円滑に文章が理解できるようになる。
例えば,次のような文章は箇条書きを用いると理解しやすくなる。
[具体例]
『命令には,アセンブラの制御や定数の定義,プログラムの連結に必要なデータ生成を行う擬似命令と,あらかじめ定義された命令群とオペランドの情報によって目的の機能を果たす命令群を生成するマクロ命令,そして機械語に対応した23種類の命令がある。』
これを次のように箇条書きにすると一層内容が理解しやすくなる。
『 命令には次の種類がある。
(a) 擬似命令
アセンブラの制御や定数の定義,プログラムの連結に必要なデータ生成を行う命令。
(b) マクロ命令
あらかじめ定義された命令群とオペランドの情報によって目的の機能を果たす命令群を生成する命令。
(c) 機械語に対応した23種類の命令
』
上記の例は,命令の種類を分類するために箇条書きを用いたため,箇条書きのタイトルの最後に「。」をつけていない。しかし,場合によっては箇条書きのタイトルが述語で終るときもある。このようなときには,箇条書きタイトルの最後に「。」をつける。
ただし,一つの箇条書きタイトルの最後に「。」を付けたときは,他のタイトルについても,最後が「。」の付く述語で終わるように表現に統一する。
文が長くなればなるほど,読み手が文の終りまで記憶しておくべき修飾語が増える。 また文が長くなると,記述している人間自身も文の最初と最後で論旨の一貫性をとりづらくなる。
【悪い例】: 『コンピュータウイルスは,ネットワークやファイルなどを通してコンピュータシステムに感染してファイルの破壊や処理の制御を予想外に変更するが,現在知られているものだけ数百種類があり,近年の著しいパソコンの増加によって,届け出件数は平成8年には3,500件にまで達している。』
この文は,途中で文頭の「コンピュータウイルス」の主語が,いつのまにか文中ほどの「届け出件数」にとって変わられ,文末の述語「達している」で締めくくられてしまっている。そのため,「何の」届け出件数が3,500件に達しているのか,一度読んだだけでは,かわからない。以下に示すように,文をできるだけ短く区切る方が理解しやすいし,おのずと文の論理的な一貫性もとりやすくなる。
【良い例】:
『コンピュータウイルスは,ネットワークやファイルなどを通してコンピュータシステムに感染してファイルの破壊や処理の制御を予想外に変更する。現在知られているものだけ数百種類がある。近年の著しいパソコンの増加によって,コンピュータウイルスによる被害の届け出件数は,平成8年には3,500件にまで達している。』
「〜となったが,・・・」とか「〜だった。そして・・・」のような接続詞を安易に用いると,以下に示すように,文の意味が確定するまで,接続詞の前の文を読み手は,一旦記憶しておかなければならない状況が生じる。これはかなりの心理的負担になる。そこで,「が」や「そして」は極力使用しない方がよい。
以下に,具体例を示そう。
(1) 「AはBとなったが,・・・」
この例で示す「が」は,後半の文「・・・」が前半の文「AはBとなった」を肯定するものか,否定するものか「・・・」の文を読み進んで見なければわからない。なぜなら「AはBとなったが,
CはDとなった」と続く場合と,「AはBとなったが,CはDとならなかった」と2通りがあるからである。
前者は,単に2つの文を結びつけているだけであり,後者は前半の逆の結論が次に続くことを示している。どちらの「が」を用いているかは後半の文を読み進むまでわからない。従って,読む上で心理的な負担が増え,分かりにくくなる。分かりやすい文を書くには,次のようにする。
(2) 「AはBとなった。そして・・・・」
この場合も「が」と同様に,「そして」の後に,前半の「AはBとなった。」と因果的に関連する文が来るか,あるいは全く関係のない文が来るかわからない。例えば「おじいさんは山に行きました。そして大きな樫の木を見つけました」のように前半が原因となった文が続くのか,「おじいさんは山に行きました。そしておばあさんは川に行きました。」のような前半と全く関係のない文が続くのかわからない。
そのため,後半の文を読み進むまで,「そして」がどちらの意味で用いられたかわからず,後続の文をどう期待しながら読んだらよいかがはっきりしない。
分かりやすい文を書くには,次のようにする。
「Aは Bとなった。Cは Dとなった。」のように「そして」を削除する。
日本語文は複雑な修飾が許される。文章を分かりにくくする最も大きな要因が,修飾する語と修飾される語の不明瞭さにある。
例えば次の文を見てみよう。
「Cを加算したポインタAが指すDによって指される番地」
修飾句「Cを加算した」がどこを修飾するかによって以下の3通りの解釈ができる。
最も自然な解釈は@である。しかし,もし書き手がAまたはBの意味で記述していたとしたら,誤解の多い表現と言わざるをえない(残念なことに,技術者の書いた文章にはこの手の表現が多い)。
どうしてもAまたはBの意味を表現したいなら,修飾句「Cを加算した」を修飾される語のできるだけ近い位置に置き,次のように記述すべきである。
[解釈Aの正しい表現]
ポインタAが指す Cを加算した Dによって指される 番地。
[解釈Bの正しい表現]
ポインタAが指す Dによって指される Cを加算した 番地。
それぞれの原則の具体的な例を以下に示す。
(1) 修飾句を先に,修飾詞を後に
例えば,「青い紙」で「横線が引かれた紙」で,かつ「厚手の紙」をまとめて一つの文で表現するとき,どのような表現がよいであろうか。次の4つの表現を比較してみる。
@青い厚手の横線の引かれた紙
A横線の引かれた青い厚手の紙
B横線の引かれた厚手の青い紙
C厚手の青い横線の引かれた紙
この中で誤解の生みやすいのは@とCである。なぜなら「青い」が「横線」を修飾することになるからである。したがって,誤解を生まないためには,修飾句(この例では「横線の引かれた」)を先に置き,修飾詞(「青い」と「厚手の」)を後に置くことがよい。
(2) 長い修飾語ほど先に,短いほど後に
仮に「AがBをCに紹介した」との意味を表わす文を書くとする。このとき「B」と「C」に“私がふるえるほど嫌いな”と“私の親友の”のように修飾語を付け,前述の文と全く意味が同じ文を幾つか作ってみる。
@Aが私がふるえるほど嫌いなBを私の親友のCに紹介した。
AAが私の親友のCに私がふるえるほど嫌いなBを紹介した。
B私がふるえるほど嫌いなBをAが私の親友のCに紹介した。
C私がふるえるほど嫌いなBを私の親友のCにAが紹介した。
D私の親友のCにAが私がふるえるほど嫌いなBを紹介した。
E私の親友のCに私がふるえるほど嫌いなBをAが紹介した。
どれが最も自然でわかりやすい文であろうか。一読して分かるようにCである。なぜならば,長い修飾語ほどその中で修飾関係が完結してしまい(例えば,“私がふるえるほど嫌いな”Bは,Bを読み込んだ時点で修飾関係が明確になる),修飾関係を把握するため修飾語を一旦記憶して置く負担が少なくなるからである。
(3) 大状況・重要内容ほど先に
日本語は,文を構成する上で重要な述語が文の最後に置かれる。そのため,順不同で
いろいろな修飾語が述語を修飾することになる。例えば,次の文を見てみる。
「ナイフで 薬指に 太郎さんが けがをした」。
修飾する語「ナイフで」,「薬指に」,「太郎さんが」は同程度の長さであるから,前述の原則(2)「長い修飾語ほど先に,短いほど後に」に照らすと,以下のようにどのような順番で修飾語が並んでよいはずである。
@ナイフで太郎さんが薬指にけがをした。
Aナイフで薬指に太郎さんがけがをした。
B太郎さんがナイフで薬指にけがをした。
C太郎さんが薬指にナイフでけがをした。
D薬指に太郎さんがナイフでけがをした。
E薬指にナイフで太郎さんがけがをした。
しかし,上記の6つの文ではBとCが最も理解しやすいのはなぜか。文を理解する過程を見てゆくと,「けがをした」の述語を見るまで各修飾語は記憶に一旦格納される。B,C以外の文では,「誰が」という主格が見つかるまで,記憶した修飾語は単に記憶されるだけで,意味的なつながりが作れない。そのため,記憶に負担が掛かる。
大きな状況や重要な内容を表わす修飾語を先におくと,次々に意味的な関係が作れ記憶の負担が減る。そこで,理解が容易になるわけである。
【注】この段落で述べたことは,あくまで仮説であり実証されたわけではないが,BCが理解しやすい文であることには変わりはない。
(1) 語順が逆転するときには「,」を打つ。
3.3の(2)において,分かりずらい文の例題として次の文を挙げた。
(2) 述語にかかる長い修飾語が2つ以上あるとき,その境界に「,」を打つ。
例えば,次の文を見てみる。
基本的に読み手(あるいは出題者)が求めている結論から先に記述すること。
単に文字が沢山埋まっているからという理由で,評価が高くなることはない。必要な結論を先に記述する(できれば箇条書きにする)ことは,書き手が十分内容の整理を行っていることを示すと同時に,読み手の立場を考慮していることをも意味する。したがって評価は高くなる。
結論に続いて,次に理由を述べ,余裕あれば背景等へ論を進めてゆく。
(2) 要点を3点にまとめる。
どのような形態の論述であれ,常に要点を3点にまとめる訓練を日頃から行って置くこと。もしまとまらなくても,まず一点見つかれば,取り敢えず「要点は3点ある」と述べてから,後から考えながら増やして行くことはできる。考え方をまとめる訓練ができ
ているか否かは,取り敢えず「要点は3点ある」と言い
きることができるか否かにかかっている。
【 具体的記述例:入社試験「応募理由の論述」例 】
<承>
私は日本工業大学情報工学科の授業をとおして,「世界に分散しているインターネットサーバを結合して一つの巨大な知識ベース化できないか」という点に興味をもち,その基礎技術の勉学と研究を行ってきた。特に,最近のインターネットとデータベースとの結合技術については,Javaやオブジェクト指向データベースを用いて,簡単なプロトタイプ(Java約1,000Steps)の作成を行った。
<転(主要部分)>
このような経験を生かして,私が貴社に入社を希望する理由は3つ挙げられる。
(1)インターネットビジネスをはじめとしたニュービジネスに積極的に対応する社風に興味を覚えたこと。
(2)情報産業の役割が大きくなる中で,技術を総合的してユーザのニーズに応える仕事に興味をもっており,貴社がその中でも代表的な企業であったこと。
(3)・・・・・・・
<結>
経験的には未熟ではあるが,貴社の発展ともに自分の人間的成長,技術的な満足感を得たいと思い貴社に応募した。
(4) 論旨を一貫させる。
論旨を一貫させることは「言うは易し,行うは難し」である。文章を書くことになれた人間でも,往々にして論旨がずれる過ちを犯す。何度も論旨が一貫しているか読み直すと同時に,日頃,先輩諸氏に文章を読んでもらい,批判してもらう習慣を付けておくことが望ましい。
(5) 指定された字数は厳守する。
論述問題には必ず「xx字以内」とか「400字詰めxxページ以内」とかの制限が付く。一般に簡潔な文ほど難しくなるものであるが,しかし400字以内と文字数の制限があるのに,100字しか記述しなければ如何に簡潔でもパスはしない。
文字数に制限を付けたのは,出題者側としても「この文字数の範囲でできるだけ,簡潔に,かつ具体的に」述べて欲しいからであり,それにはこの程度の文字数が必要だとの見込みがあるからである。それを全く無視した文字数で記述したとすると,「題意に合致してない」として落とされる可能性は十分ある。
したがって指定された文字数の90%以上,100%以下に必ず入るようにすること。
指定された文字数を越えて,だらだらと記述することは,内容をまとめる能力がない証拠であり論外である。
前章では内容の整理方法について述べたが,次は整理したそれぞれの内容を筋道を立ててわかりやすく展開してゆかなければならない。基本的な展開方法は,レポートであれ論文であれみな同じであり,いわゆる起承転結の順序で
展開してゆく。
論文の場合,起承転結の展開方法がかなり決まっており,一般に次のように展開する。
@起: 1.はじめに
研究の背景となった動機や,研究に対するニーズ,研究目的等について述べる。
2.現状における研究レベル
類似した研究の現状と比較し,解決すべき課題と研究テーマとの関連性,意義等について述べる。
A承: 3.研究テーマの概要
研究目的とした内容に関する課題やそれらの課題を解決するためにどのような研究を行ったかの概要を述べる。
例えば,新たなアイデアの説明や新たなシステムの特徴や機能,実現方法,構成等について述べる。
B転: 4.研究の成果
研究したことによってはじめて明らかになった内容について述べる。
例えば,新たな判明した事実の説明や開発システムを用いて行った実験結果等について述べる。
C結: 5.研究の評価
「客観的」に研究の内容を評価して,自分の研究成果(新規性,信頼性,有効性)を具体的に説明する。
ここで新規性と信頼性(客観性)は,特に重要である。
自分だけすばらしい成果だと思っても,すでに他者が同様の研究成果を得ていたり,他者から見れば,どうでもいいような成果もある。
客観性に関しては見方によってどうにでも変わるような評価方法は避ける。
6.おわりに
研究を通して新たに明らかになった問題点や,解決すべき課題等について述べる。
必要に応じて,研究の指導者,協力者に対する謝辞を述べる。
せっかく苦労して論文を書いたとしても,内容全体を見渡したとき,論旨が一貫性がなく何を言いたいのかわからなことが多い。論旨の一貫性については,特に論文の場合には評価の重要な評価ポイントなるため,細心の注意が必要である。
卒業研究論文や論文の抄録を記述するとき,多くの者が論旨の一貫性を欠いているため,書き直しを命じられるようなことが往々にして見受けられる。
そこで,論文や論文の抄録を記述し終わった後,特に注意して確認すべき点を以下に列挙しておく。
(1) 研究のニーズと研究目的が合致していること。
研究の目的が,研究の背景となるニーズからどのように生じたかが理路整然と述べられていないような場合である。どのようなニーズや課題から研究テーマを選定したのか理解していないと,突然,何の脈絡もなく研究テーマが記述されたりする。
自分で十分理解しないまま記述すると,このようなことになるので注意すること。
(2) 目的と評価内容が一致していること。
しばしば見受けられる点で,例えば,目的として何らかに機能の効率化を挙げていながら,評価を操作性やユーザインタフェースの改善点等から行なっているような場合である。
効率性の向上を目的としたなら,応答時間や作業時間の短縮率等が評価項目となるはずである。
(3) 評価は客観的であること。
これも頻繁に見受けられる点で,こんな新しいアイデアを実現した,こんな便利な機能を開発したといっても,本当に他者から見て便利かどうか,何の実験も考察も行われていないような場合である。
ただ素晴らしいと自分で結論付けて,それが通用すれば,インチキ宗教家でも預言者でも研究論文は書ける。
研究論文である以上,万人が納得できなければならないし,実験であれば,他者が行っても同じ結果が得られなければならない。
自然法則に関する研究では,客観性はかなり満足されることが多い。しかし操作性や理解性の向上等の人間の主観に依存するような要素の多い研究では,この客観性をどのように実現するかが,実は大きな課題になる。
以上に述べた内容のうち4章までは,第1版で記述したものと同じである。5章,6章は,第2版になって新たに追加した部分である。この部分は実際にレポートの提出や論文の査読を行っていて,あまりにも同じ過ちが繰返されるとの苦い経験が
生かされている。
インターネットの時代でも(むしろインターネットの時代だからこそ),よい文章を書く技術は重要になっている。筆者の根気が続く限り,ここに掲載した内容は今後も継続的に追加して行くきたいと考えている。
※このほかにも,論述の作法や書き方について共通するような留意点がありましたら,筆者まで連絡いただければ幸いである。
以上