青色発光デバイス,さらにはフルカラー(紫外〜可視〜赤外)発光デバイスの実現を目指して・・・ 

「地球は青かった」。ガガーリンの有名な言葉である。 空の「青」,海の「青」,…。 我々は青い色を見ると心が休まるようである。  皆さんは,現在「青色発光」が半導体産業やコンピュータ,家電業界などで大きな ビジネスチャンスと期待されていることをご存知でしょうか。  半導体を用いた発光デバイスは小型,長寿命,低消費電力などの特長を持っています。 青色のLEDは現在ようやく市販されるようになりましたが,秋葉原で買っても1個500円以上 します。それが,赤色のLEDと同程度の価格になれば屋外用の大型ディスプレーや種々の表示器, 交通信号機,ランプなど,非常に大きなマーケットが期待できます。 一方,青色(すなわち短波長光)を出す半導体レーザもその出現が待ち望まれています。 例えばDVDにおいて,ピックアップに使用するレーザ光の波長が半分になるとその記録密度は 4倍になります。従って,全ての半導体・コンピュータメーカー,家電メーカーが必死になって 青色レーザの開発研究を行っていると言っても決して過言ではありません。  しかし,現在1万時間以上の長寿命の青色半導体レーザをデモンストレーションしているのは, 世界中でただ1社,徳島県にある蛍光体メーカーの日亜化学だけです。 その日亜化学の中村修二さんは,良質の薄膜が得られないために,それまで青色発光材料としては 絶望視されていた窒化ガリウム(GaN)を用いて,独自の工夫をして青色発光を実現させたのです。 世間ではそれを「中村マジック」と呼んでいますが,その中身については当然ながら知られていません。 毎年春と秋の2回行われる応用物理学会においては,4日間に及ぶ青色発光のセッションの最後にいつも 日亜化学の発表が行われ,大企業の多くの研究者たちがその(成功の)秘密を探ろうと集まり,必死に 中村さんに食い下がって質問し,大変な熱気で包まれます。  当研究室では,現在でも半導体結晶成長における最先端技術である分子線エピタキシー(MBE)装置を 15年前に導入して,高性能半導体レーザやHEMT(高電子移動度トランジスタ)などの超高速トランジスタの 実現を目指して,Al−Ga−In−As系V−X族化合物半導体混晶や超格子構造の成長を行ってきました。 この系にX族元素の窒素(N)を加えるだけで青色発光材料の研究ができるので,平成9年度より急遽GaNを 用いた青色発光デバイスの研究を開始しました。窒素源として,昨年度はRF励起プラズマによるラジカル 窒素を検討し,GaN薄膜のMBE成長が可能であることを確認しました。今年度は窒化源としてアンモニアも 検討する予定です。 さらに,当研究室では従来からオフアクシスマグネトロンスパッタリング法による薄膜成長も行ってきたので, この,比較的手軽な手法によるGaN薄膜の作製も検討します。
また,GaAsもGaNも同じV−X族化合物半導体であることに着目し,良質の基板結晶が得られるGaAsのひ素(As)を 窒素(N)で置き換えることができれば,GaAsがGaNの良質な基板となると考え,その可能性を検討しました。そして, アンモニア気流中でGaAs基板を熱処理することによって,表面がGaNに変化することを見出したので,本年6月に ワルシャワで開催される第3回ヨーロッパ窒化ガリウムワークショップで発表を行うことになった。  これらの研究は大学院博士後期課程の松丸和男君を中心に,博士前期(修士)課程学生,卒研生および企業からの 特別研究員も加わって,総力をあげて行っている。また,かって電電公社武蔵野通信研究所におられ,我が国の 半導体レーザ研究の第一人者であり,現在は千葉大学機能材料工学科教授の岡本紘先生にも特別研究員として 研究に加わっていただき,ご助言をいただいている。
ところで,Al−Ga−In− N−As系混晶は,その組成を制御することによってバンドギャップの値を 6.2eV(波長0.2μmに相当)から0.36eV(波長3.4μmに相当)まで連続に変化させることが可能である。 すなわち,紫外〜可視〜赤外領域の任意の波長(色)を発光するデバイスへの応用が期待される。 当研究室では,上記のMBE法の他に,有機金属ガスを原料として用いた化学気相成長(MOCVD)法も 視野に入れて,現在注目されている青色発光デバイス研究の次の研究課題として, Al−Ga−In−N−As系V−X族化合物半導体混晶を用いて,紫外〜可視〜赤外領域の任意の波長の発光を する半導体レーザ(LD)あるいは発光ダイオード(LED)を開発し,実用化をはかることを旗印に,全力で研究に 取り組んでいきます。


[ 日本工業大学 システム工学科 教授 鈴木敏正 ] - 日本工業大学 通信より.... ]