彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

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特別講演「千葉大学亥鼻IPEのホップ・ステップ・ジャンプ」

千葉大学医学部付属病院薬剤部長 教授 石井伊都子 先生 

はじめに

 ホップ・ステップ・ジャンプ、これは三段跳びです。 助走をしっかりとつけてホップまで飛び、ステップをクリアすれば、ジャンプはスムーズにいきます。この三段跳びに準えて私たちがやってきたことをお話したいと思います。

 千葉大学は同じキャンパスの中に、医学部、看護学部、薬学部があります。非常に大きなキャンパスで、看護学部、医学部、薬学部、病院が亥鼻という一つの大きな丘の上にあります。私たち3学部は一つのキャンパスにあるという優位性を持ち、2週に一度会議を開きながら亥鼻IPEを作っていきました。

助走 ~亥鼻IPEの構築~

 亥鼻IPEの目的は、患者中心の医療を実現するためであり、医・薬・看の3学部が共に学ぶということをテーマに行ってきました。そして、このプログラムを習得した学生は、医療組織の中で振る舞うことができる「自律した医療組織人」としてのキャリア育成を研鑽すること目指しました。亥鼻IPEは、コミュニケーション、倫理的感性、問題解決能力を三本柱として、患者のためには何が一番いいかを考えました。医療現場では、それぞれの立場がいろいろな意見を持っていると、葛藤や対立が起こります。これらの課題を乗り越え、患者中心の医療を成し遂げるために学生は亥鼻IPEを学びました。

 亥鼻IPEでは、1学年ずつ1つのステップを学んでいきます。ステップ1は患者を理解する、ステップ2は職種をよく知る、ステップ3は医療人が誰でもぶつかる葛藤をテーマにしたドラマを作成し、問題の構造化を行い合意形成してからチームとして意志決定をしました。この過程は、あくまでも倫理的に課題を解決することとしました。最終ゴールであるステップ4では、専門職連携の実践として退院計画を立てるという課題を計画しました。

 亥鼻IPEを行うにあたり、重要なのがグランドルールです。グランドルールは、学生だけでなく、教員や亥鼻IPEに関わる専門職全てに共通であり「全ての人は平等である、お互いの違いを尊重する、秘密を守る等」、日常心掛けるルールを作りました。

 亥鼻IPEのプラグラムの作成に当たり、英国に5回程行きました。その際、英国の先生方が必ずおっしゃっていたことは、「Make your own IPE!!」です。あなた方は、私たちのことを調査しているけれども、あなた方独自のIPEをつくらないと根付かないということです。更に「Find a key person」、それぞれのIPEには局面があって、それぞれに大事なキーパーソンがいて、そのキーパーソンの役割が非常に重要であるということを言われました。そして、「A grand rule should be shown」、あなた方のグランドルールをしっかり作っていきなさいとを何回も念をおされました。私たちはそれらを守り、私たちのIPEを作っていきました。

ホップ ~共有~

 まず、最初の一歩のホップです。1年次の学習目標としては、患者理解です。学生は、患者さんに会って話を聞いたり、闘病記を読んだり、3~4人のミックスグループで患者に会いに行くというプログラムを受講します。基本的にはグループで活動し、最後にポスター発表などをしました。そして、2年生で専門職について学びました。

ステップ ~検証~

 次は、ステップとして、自分たちの作成した亥鼻IPEの検証を行いました。方法としてシンポジウムを上手に利用し、ジャンプに向けての準備をしました。平成19年度は、我々のキックオフミーティングを行い、Helena Low先生やElizabeth Anderson先生をお呼びし、自分たちが作った亥鼻IPEのプログラムを検証してもらうこととしました。平成20年度は市民、亥鼻IPEに参加した学生、医療現場、教員など参加した人を全て巻き込んでシンポジウムを開き、更にプログラムの検証を行いました。平成21年度のシンポジウムでは、プロフェッショナリズムの定義、合意形成の仕方、教育評価を各専門家にお話して頂き、ジャンプに向けての準備をしました。

 亥鼻IPE3年目に、3年次の学生にステップ3を開講しました。ステップ3では医療上の葛藤を体験し、患者・サービス利用者およびその家族にとってより良い解決策をチームとして提案できることをテーマとし、私たち自身が末期がんの患者のドラマをつくりました。学生は映像を見た後、ファシリテーターが入って話し合を行いました。まず、講義で問題の構造の解析方法を理解し、学生にドラマの問題を構造化してもらい、チームとしての意見を合意形成して、チーム実践力を発揮してもらうというプログラムとなりました。

 なお、各ステップごとにそれぞれ評価を行いました。この3年間に自己評価、他者評価、グループ評価、小テスト、それぞれの講義に毎回リフレクションを出してもらい、最後には最終レポートを書いてもらいました。それぞれの評価の内容を3年の間につくり上げていきました。

ジャンプ ~統合~

 4年次にはステップ4として、患者を全人的に評価し、診療・ケア計画の立案と展開の方法を学び、患者・サービス利用者中心の専門職連携ができる能力を身につけるため、退院計画を立てることを行いました。ステップ3のドラマの続きで末期がんの患者さんのカンファレンスを行ったドラマを例題としました。学生の課題は、6つの病態について模擬患者から話を聞き、最終的には退院計画を立てました。その際、専門職に附属病院から参加してもらい、コンサルテーションし、カンファレンスを行って退院計画を立てました。

着地 ~課題~

 よい着地をするために各ステップでFDをやりました。ステップ1ではMix groupのファシリテートのためのFD、ステップ2では、病院、地域の医療施設の見学を行いますが、その方たちのためのFD、ステップ4については退院のためのコンサルテーションの仕方についてのFDをやりました。

 亥鼻IPEを履修し卒業した学生は、「果たして一人の患者にこんなに時間をかけることができるのか」という意見や「チームには専門職連携について学んでいない人がいる」という課題をあげています。従って、今後はIPEについて医療現場での整備、即ち真のIPWが実現されることが必要です。

 最後に、医療現場では、患者のために、他者のためにといった利他的価値観が要求されます。一方、生物は自己利益を求める大原則があり、医療においては相反する思想が求められることになります。それを解決するためには、医療人は医療行為という利他的な行動にやりがいや喜びを持つこと、メンバーの組み合わせを変える等で働く環境を整えること、そして働くことが楽しいと思えるような瞬間をつくっていくこと等を行い、医療現場を整備し、IPWを実現していくことが大切と考えます。