彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

専門職連携の実践(IPW)と教育(IPE)の展開(2006年11月)

 埼玉県立大学国際セミナー’06を,「専門職連携の実践(IPW)と教育(IPE)の展開―いかに政策を作り、教育に取りくむか―」 というテーマで,2006年11月22日、23日、24日の3日間、埼玉県立大学において開催しました。講演会,ワークショップの模様をお伝えします。

講演

 2005年度の本セミナーは専門職連携の実践(Interprofessional Work: IPW)と教育(Interprofessional Education: IPE)とは何か、またその必要性などを中心に発表と討論が行われた.それを受けて、本年度は「IPEの政策決定(policy making)」を中心課題にして、「いかに政策を作り、教育に取り込むか」と副題をつけ、CAIPEの協力のもとに英国より2名、国内より1名、計3名から講演が行われた.
 
参加者は459名で、学外者が59名、学内教員が45名、学生が391名であった.

Geoffrey Meads教授による講演

 最初の講演者であるGeoffrey Meads教授は、英国IPE振興センターUK Centre for the Advancement of Interprofessional Education: CAIPEの前統括責任者で、現在はUniversity of Warwickのプライマリ・ケア研究センターの教授である長年にわたりプライマリ・ケアやソーシャル・ケアにおける地域組織の運営責任者や政策決定に携わり、またこの方面の研究者として活躍している.本セミナーでは、Modern Health Systems and their Impact on Interprofessional Education(近代保健システムとそのIPEへの影響)という題で講演をお願いした.その国の医療、特にプライマリ・ケアの現状と政策を考慮し、それに適合したIPEが必要という内容であった.

Graham Ixer氏による講演

 Graham Ixer氏は、CAIPEの理事であるが、年少者を対象とするソーシャルワーカーとして活躍後、ソーシャルワークの指導者を育成する大学で教鞭をとり、その後、英国政府のソーシャルワーク担当機関であるThe General Social Care Council (GSCC)に参加し、長年にわたりソーシャルワークの正規登録事業などの多くの国家政策プロジェクトを指導経験がある.本セミナーではThe changing policy landscape of social care in England(英国におけるソーシャル・ケア政策の変遷)という題で、英国のみならず世界でSWの歴史を概観し、将来への展望を示した.

坂田悍教教授による講演

 本学の坂田悍教教授は整形外科医である.現在、本学のGP実施部会長として、地域開発・地域連携を担当し、地域多職種間連携推進のための拠点作りを担当している.わが国のIPEの実践の現状を報告した.

IPEファシリテーター養成のためのワークショップ <Basic Course>11月23日(木)10:00~16:00

講師:Ms. Helena Low, Mr. Graham Ixer   
運営担当:横山恵子(看護学科)、原和彦(理学療法学科)、朝日雅也(社会福祉学科)
参加者:63名(学外34名、学内29名)

午前の部

 あらかじめ同じ職種がかたまらないように6~8名ほどのグループを編成し,ワークショップを行った.お互いが知り合う目的で、最初に、二人一組になって紹介し合った後に、グループ内でIPEにどう関わっているかを含めた他己紹介を行なった。
 つづいて講師から「専門職連携学習および実践の原則」、「IPEの定義」、「IPEの原則」、「効果的なIPEとは」などの講義を受けた。その後、脳卒中後遺症のある「山田さんの事例」を紹介され、グループワークを行なった。

  • グループ作業(1):入院時のこの段階で、山田さんと接触したと考えられるのはどのような職種か?
  • グループ作業(2):急性期を過ぎて、リハビリ専門病院への転院を希望している状況にある山田さんに、どのような専門職がケアに関与しているか。またさまざまな専門職が一緒に仕事をする方法に関して、どのような問題が考えられるか。
  • グループ作業(3):山田さんのケアに影響を及ぼすと思われる専門職連携の問題は何か?

  グループで活発なディスカッションが行なわれ、ポストイットなどを用いて内容をまとめ,ホワイトボードに記述してもらった。

 午後の部

  • グループ作業(4):連携に必要な技術を身につけるために、どのような予備訓練または継続教育が資格取得後の専門職者に必要か? 保健および社会ケアサービスの向上を援助するために、諸大学はどのように地域社会と連携することができますか?
  • グループ作業(5):「専門職連携プロジェクト計画を立案」についての解説があり、それぞれが目的を定めて用紙にまとめ.グループでディスカッションをした。

  さらに「リフレクション(省察)」についての講義があり、内省から学ぶという手法についての説明があった。実際の事例を用いてのグループワークであったため、具体的にイメージできて活発なディスカッションができた。ホワイトボードの利用は効果的であった。専門職連携プロジェクト計画に関しては、具体的な用紙が提示されたが、時間の関係で説明がやや不足しており、十分な理解には至らなかった。IPEにおけるリフレクション(省察)の重要性については、今回初めて取り上げられたテーマであり、興味深かった。

IPEファシリテーター養成のための学内教員向けワークショップ <Advanced Course> 11月24日

運営担当:川俣 実(作業療法学科)、平野寛弥(社会福祉学科)、新井利民(同左)

 11月24日(金)、大学本部棟大会議室において、本学教員を対象にしたIPEファシリテーター養成のためのワークショップ(アドバンスコース)を開催した。参加者は看護学科14人,社会福祉学科5人,理学療法学科・作業療法学科・健康開発学科はそれぞれ3人の,合計28人であった.いずれも、これまでに何らかのIPEセミナーの参加やファシリテーターの経験をもっていた。
 ワークショップは、講師のMs. Helena Low、 Mr. Graham Ixerの話を逐次通訳しながら、翻訳された資料をもとに進行した。参加者が各自の経験とIPEの技能とを生かし、以下のような問題を掘り下げる機会がつくられた。

  • 学生の専門職連携学習を促進するのに用いることができる指導と学習の方法
  • 「漠然とした能力」とその評価(assessment)
  • 専門職門職連携教育プログラムの評価(evaluation)

恒例の他己紹介により参加者同士の交流を図り、講演、グルーフ活動、ロールプレイなどによって進められた。

専門職連携学習及び実践の原則

 ワークショップの導入として、次の専門職連携学習および実践の原則が確認された。

  • お互いを尊重すること
  • お互いを援助しあうこと
  • 自分の知識と専門技術および他者の知識と専門技術を認識すること
  • 自分と他者との知識と専門技術のどこが異なり、どこが重なっているのかを認識すること
  • ロールプレイ

 次のような設定で参加者8名がその役割を演じた。鳥の巣病棟のチーム(診療部長、医局員、看護部長、理学療法士、作業療法士、栄養士、言語聴覚療法士、ソーシャルワーカー)は、それぞれの専門職が個別のケア方法やケアモデルをもち、患者の経過や治療記録を別々に管理していた。患者側からみるとよく支援してもらっていると感じる反面、別々の専門職者から相反する助言を受けたり、同じことを別の専門職者から繰り返し聞くこともあり、苦情がでることが時にあった。そのため、チーム側としては、記録を「共有」しようという提案が出され、話し合うことになった。

IPEファシリテーターに必要なスキル

 ロールプレイを受けて、参加者7名程度のグループで、ファシリテーターに必要なスキルと困難な点を話し合い、板書して、発表した。

<必要なスキル>

  • 利用者の立場に常に立てるように工夫すること
  • 共通の目標と具体的目標は何かを問いかけること
  • 連携を困難にしている原因を探ること
  • 他職種の意見に対する理解度を表現させること
  • 相手のことを知ろうという気持ちにさせること
  • 自分の感情を客観的に捉えること、など

<困難な点>

  • 他職種にわかりやすく説明すること
  • ファシリテーターも偏見を全て捨てること
  • 学生の段階では共通目標をもつこと(たとえば、学生間の目標のズレに気づかない)など

 発表に対して講師から助言や補足があった。ファシリテーターには、参加者の考え方、価値感、地位などの違いからくる衝突を調整し、限界を超えた新たな創造や可能性を生み出すために、開かれた討論と感情の表現、そして省察を促すなど、参加者を協働するように活動させる能力が求められる。そして、その知識、技術、と態度は、そこに止まるのではなく、より高い向上が求められるとまとめられた。

「漠然とした能力」とその評価

 漠然とした能力(wicked competences )とその評価の説明があった。特に評価の意味で「assessment」と「evaluation」の違いが強調された。漠然とした能力は、専門職連携にとって重要であるが、その能力は微妙で複雑な技術を含んでいるために定義することは難しく、人の気質、認識、態度や実践などの要素が混ざり合ったものである。そして、専門職連携の実践の中での核となるものは、コミュニケーションの力、聞き取りの力、省察の力、相手を動機付ける力、チームワークの力、交渉する力、感情的な衝突などを解決する力、自己主張する力など他にも沢山あると話された。

 漠然とした能力の評価は、その能力が状況に依存しているために、実践の場で評価することが必要であり、その評価方法は、時系列的であり、多面的であり、評価者と被評価者も双方向である必要がある。また、評価する内容は、定義され、エビデンスを持ち、明瞭に測定できる基準が必要であり、学生も了解していることが大切であると説明があった。具体的な評価方法には、学生の自己評価、ポートフォーリオ、振り返りの記録、グループワークの記録を挙げていた。

IPEプログラムの評価

 このテーマについては、ワークショップの終了時間が迫り、十分な時間を割くことはできなかったが、評価対象、評価の目的と根拠、誰のための評価なのかをおさえる必要があると説明があった。配布資料にある専門職連携教育の実践計画ガイドラインと専門職連携教育の成果としての6つモデルについて概説された。

 最後に、「専門職であることは、専門職連携ができることである」という言葉を頂き、専門職連携教育では、個人、グループ、組織の関係の質を常に向上させていかなければならないと感じた。

取り組みの成果と課題

 第2回IPE国際セミナーを終え、実行委員会等で話し合った取り組みの成果と課題は、次の点である。
 第1の成果としては、学外からの参加者の中には昨年度も参加した方がも数多くいるなど、本学のセミナーがIPEやIPWに関する関心の高まりに応える企画として定着しつつあるという点があげられる。今後も本セミナーを継続的に実施し、また期待を裏切らないような企画内容を検討し、学内外の関係者に呼びかけて、専門職連携教育の機運と環境醸成をはかるために貢献していきたい。

 第2の成果は、学外に開いたワークショップに対しても、幅広い層の参加をいただき、より具体的な専門職連携教育や実践に関する議論を行なう事ができたことである。講演では理論や理念を中心に説明が行われたが、教育方法や指導内容の検討については、ワークショップ形式で行なうことにより、参加者の専門職連携やその教育に対する具体的な行動に結びつける力を獲得する事ができると考えられる。昨年度、今年度と2回のセミナーの経験を経て、本学のセミナーの一定の「型」を形成する事ができた。この形を、本学国際セミナーの文化として、今後もさらに内容が充実できるよう努力したい。

 第3の成果は、これまで本学で行ってきたIPEやそのカリキュラム形成、教員のかかわり方などが、紹介された英国の事例や教育理論と比べそれほど遜色なく、また優れている点も多々あるも確認できたことである。そのことは、特にワークショップなどについては、これまでの成果を踏まえつつも、本学教員やこれまでの参加者が協働してプログラムや運営を担ったほうが、参加していただく現場の援助職者にとっては、むしろ効果的なものになることも考えられる。

  これらの成果は、専門職連携やその教育の理念と考え方を学内教職員、県内関係職種、国内教育関係者などに広め、その実践を盛んにするという本取組の狙いに沿ったものであるとともに、特に様々な関係者の参加を得た学外・学内ワークショップからは、今後の専門職連携教育の方法に関する重要な示唆を得る事ができたと考えられる。

  一方で、今後の国際セミナーの企画については、次の事を考慮に入れる必要がある。
 講演の内容については、昨年度、今年度ともに内容が高度であり、また英国の状況も日々変化しているなかで、どこに焦点をあてて議論を行なうかについて、より詳細な準備を要する。
 はじめて参加する方や学生のために、IPWやIPEの必要性などについて、これまでの議論の要約を示す必要がある。Pre-seminarを行うことも考えられる。
 
学生が多く参加したが、内容は理解しにくかったようだ。一方で、本学の「連携統合科目群学生参画会議」の学生メンバーが講師にインタビューする時間をもうけたが、様々な英国の専門職や教育の動向を聞くことができ、有意義な取り組みであった。今後学生の参加のあり方は検討を要する。
 2日目のワークショップは、予想よりも保健医療福祉施設・機関の職員は少なかった。ターゲットや英国の講師によるワークショップのやり方も含めて、現場の職員がいかに専門職連携実践や教育の理念と方法を身につけられる場を提供できるかについて、今後も十分検討する必要がある。
 幅広い参加を得て今後も本セミナーを推進していくには、他大学との共催なども視野に入れて、企画内容を検討する必要がある。