彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

地域における専門職連携教育(IPE)の実践と課題(2007年11月)

 2007年11月29及び30日の日程で、第3回目となるIPE国際セミナーを開催しました。

講演

英国ブライトンにおける専門職連携教育の実践と課題

Dr. Richard Gray
(General Practitioner and Principal Lecturer in Primary Care, Brighton and SussexMedical School 一般医,ブライトン大学・サセックス大学医学部プライマリケア担当)

Ms. Rosemary Gaudoin 
(Registered Nurse, Midwife and Senior Lecturer, Institute of Nursing and Midwifery, University of Brighton  看護師,助産師,ブライトン大学看護助産学部)

 リチャード・グレイ氏(ブライトン大学・サセックス大学合同医学部プライマリケア担当)から、英国の基礎教育と、特に医学教育におけるIPEの現状について報告があった。
 
ブライトン大学・サセックス大学合同医学部にて専門職連携教育に取り組み始めたときに、最初に課題と感じたのは、用語が多岐にわたるということであった。そこで、英国専門職連携教育推進センター(CAIPE)のIPEの定義を採用することとした。このような専門職連携教育がイギリスで実践されてきた背景には、いくつかのサービスの失敗による事件や事故があった。それに対して様々な調査報告書が出され、これらの共通する結論は、専門職間の協力やコミュニケーションの不足が事件や事故をもたらしたというものであった。また1988年に国際保健機構からも、地域の健康問題に取り組むために、専門職は資格取得教育や取得後の教育で、ともに学びあう機会を持つべきだとの報告が出され、英国政府や英国の医学界においても同様の報告が出された。
 私たちは学部教育において専門職連携教育を取り入れているが、すでにいっぱいのカリキュラムの中に導入すること、時間割を確保すること、継続的な教育として発展させること、教員の専門職連携教育に対するスキルを向上させることなどが、課題となっている。
 またこの間、英国内の医学部における専門職連携教育の実態について調査したが、経験豊富な教員でさえも、専門職連携教育に対する準備や学習が非常に求められていることが示唆された。

 ローズマリー・ゴードイン氏(ブライトン大学看護助産学部)からは、助産・小児看護、児童福祉の観点から、英国のIPEの背景とブライトン大学の取り組みの紹介があった。
 2004年児童法によって、すべての自治体において児童サービスの統合化が規定された。それゆえにイギリスでは、専門職連携は一時的な流行ではなく、法律による義務となった。これによって、児童トラストが設立され、第1線サービスの統合、プロセスの統合、戦略の統合、機関間連携の協働統治が求められている。この背景には、ビクトリア・クランビア事件(虐待による児童殺害事件)と、それを調査した報告書があり、協働文化の欠如が、この種の事件をもたらしたとされている。
 
ブライトン地区では、2006年にそれまでの教育、社会的ケア、保健医療の各セクションが統合され児童及び青少年トラストが設立された。地区を3つのエリアに分けてチームを編成して、児童及び青少年のサービスを提供している。それに対応した教育を展開する必要があるが、マクロレベルでは、例えば看護師助産師協議会では、専門職連携教育についての取組みの指針を表明している。興味深いのは、専門職連携教育は資格取得前に行うのが大事であるが、実際に導入するのは資格取得後の教育のほうが容易であると述べている。メゾレベルでは、アセスメントの方法、説明責任、用語、介入方法、哲学、法的な責任などの要因があるが、これを専門職連携教育と実践によって解決していく必要がある。
 
我々は資格取得後の専門職連携教育を行っているが、受講生に対する調査によると、このプログラムは職種の役割に対する見方の変化や、チームワークがもたらす効果などを感じることができるものであったことが伺える。
 IPEはIPWに役立ってこそ価値がある。そしてIPWがうまくいくことが、保健医療福祉、子どもの未来、すなわち我々の未来の成功をもたらしてくれるだろう。

札幌医科大学医学部・保健医療学部合同カリキュラム「地域密着型チーム医療実習」の教育効果と課題

相馬 仁 先生 (札幌医科大学医学部)

 札幌医科大学の相馬仁氏からは、「地域密着型チーム医療実習の教育効果と課題」というテーマで講演をいただいた。札幌医科大学では、「平成16年度現代的教育ニーズ取組支援プログラム」の支援を受け「地域密着型チーム医療実習」を開始した。学生は地域(別海・釧路)に滞在し、現地で活躍するスタッフの指導を受け、患者・対象者及びその家族とのふれあいを通じてコミュニケーション能力を高める。
 背景として、学生側としては地域医療に関心を持った学生の存在、早い時期での学習機会への要請などがあり、また教員側としては、「地域医療貢献」「地域活性化」「チームワーク」等の観点から、両学部の活動や将来構想を問う必要があった。そして、地域医療マインド、パートナーシップ力を、地域医療に対する関心から理解・志向性・効力感、そして使命感へと発展させることが、取り組みの目指すものである。
 
地域滞在実習の前に準備教育期間(半年)をもち、学内外の医療関係者のみならず、行政職の講義、種々の資料を提供してのグループ学習を行っている。8月の実習では、それぞれの実習施設でチーム医療を学ぶとともに、疾病予防の観点から小学校や老人クラブなどで学生が企画した健康教育を行う。この実習を通して学生が早期から互いの専門性を理解し、尊重するという基本的態度が養われている。現在ポートフォリオを導入して評価体制を確立するとともに、学内教育においても学科の垣根を越えた地域医療合同セミナーを計画している。
 教員は、学生の能動的学習態度の習得に努め、垣根を越えた教育体制を確立し、裏方に徹することが求められる。またカリキュラムを体系的に構築し、パートナーシップ力と地域医療マインドの醸成によって、地域医療に対する使命感を養っていきたい。

埼玉県立大学における地域と協働した専門職連携教育の実践と課題

新井 利民 (埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科)

 埼玉県立大学の新井利民(社会福祉学科)より、「埼玉県立大学における地域と協働した専門職連携教育の実践と課題」と題する報告があった。
 
埼玉県立大学の取組は、「保健医療福祉の<連携と統合>を担う人材の育成」と、「埼玉県内の保健医療福祉の<連携と統合>の推進」という2つの柱を基盤にし、教育方法の開発、演習機関との協力関係の確立、研修事業の企画実施、調査研究などを行ってきた。
 過去2年間、4年次に試行的に実施している専門職連携演習(IP演習)で15の学生グループが地域の保健医療福祉の様々な機関とそのサービス利用者・患者の協力を得て学んできた。多くの学生はそれぞれの専門実習を終えてからIP演習に挑むこととなり、自己の専門性や他職種の役割・専門性について改めて考え、またチームとしての関わり方、チーム形成のプロセス、利用者を中心に据えて考えることの重要性などを体験的に感じ、学び取っていることが伺えた。また演習を導いていただく現任者の方々への研修事業、一般公開によるIP演習報告会などを実施し、さらに計画全体や個々の企画及び実施した成果を報告し、意見をもらう「専門職連携推進会議」も3つの圏域で立上げ、平成21年度のIP演習正式開講にむけ、今後順次拡大させていく予定である。
 課題は多いものの、保健医療福祉サービスの質の向上のために果たす高等教育機関の役割は非常に大きく、大学自身が地域と協働する能力が問われている。

質疑応答

Q.とくに終末期医療などでは、倫理的な課題が重要になっており、倫理的課題の解決のためにはチーム医療が非常に重要である。お二人の先生方はどのように実践されているか。またチーム医療や倫理教育に興味がない・否定的な方々にどのように教育しているのか。
A.IPEにおける倫理的課題に関する内容は、現在議論をしており、今後明確にしたい。否定的な方々に対することについては、なんでそのような反応を示しているのだろうか。もともと学校やテレビなどで得られた固定観念から、悪く取っていることがある。もう一つは、うまくファシリテートすることで、このような固定観念をなくすこともできる。

Q.埼玉県立大学では医学生の参加があったようだが、その単位はどのようになっているのか。
A.埼玉県立大学の医学生の参加はトライアルで、被験者なので単位は出していない。

Q. 札幌医科大学のセミナーでは、定員があるらしいが、たくさん応募した場合どのように選別しているのか。
A.定員40名ということでやっているが、すこしオーバーすることもあるが、途中でやめる学生もおり、たくさん来て大変、ということには今のところなっていない。

Q.ゴードイン氏の説明ではIPEは現場で生かされるべきものとあったが、教育の客観的判断材料はどのように行っているのか。
A.イギリスでも同じような質問が投げかけられている。今調査しているひとつは、児童ケア従事者へのアウトカムというのはまだ十分に調査しきれていない。従事者はもちろん、メンターにとってもIPEは非常に大変なものであるので、それらのニーズをしっかりとアセスメントすることが必要である。もう一方で、児童に対するケアへのアウトカムがある。これは政府からも客観的な数値が出ているので、それをもってアウトカムを評価することを行っている。

Q.IPEを行っている教員の連携はどうなっているのか。教員側の連携の工夫はあるか。
A.教員も同じチームで一緒に作業することによって、今までになかった考え方なども共有できるようになってきている。
A.自分の本来の教育や研究を尊重するということが大切ではないか。自分の研究ができなくなったら、この取り組みもできない。そういった点からは学長などの理解も必要なのではないか。他の教員との協働で自分にないものをほかから吸収できる。また少ない時間で効果をあげるために、会議では課題を明確にし、またメーリングリストを活用するなどしている。
A.学生の声を拾って、教員にも広めていくことが大切ではないか。IPEは人間性をはぐくむ点で非常に意義があると思う。そのような学生の学びや声を、広めていきたい。
A.IPEを大学に言われたからしぶしぶやるのでは、IPEの理念が浸透しきれないで、指導上の問題を起こしてしまうこともある。共通認識が必要である。

IPEファシリテーター養成のためのワークショップ

ファシリテーター:
大塚眞理子(埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科)
原和彦(埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科)

  11月30日(金)10:00~16:00、本学本部棟大会議室で、Dr.Richard Gray、 Ms. Rosemary Gaudoin 、萱場 一則をコメンテーターとして実施した。学外から16名、学内から29名、合計45名の参加者があった。
 今回は、本学が試行錯誤して実施してきたインタープロフェッショナル(IP)演習のためのファシリテーター研修をもとに、講義とグループワークを組み合わせた「専門職連携ファシリテーターの基礎研修」という研修プログラムとした。

講義

 本学が行なっているIP演習の概要は、昨年東松山市総合福祉エリアで行なったIP演習のビデオを上映し、今年度作り直したIP演習の目的・目標、実施内容を本学嶌末憲子が説明した。
 
専門職連携ファシリテーターについては、「学習促進者」としてのファシリテーターがIP演習でどのような役割を果たすのかについて、特に、従来の実習との違いやリフレクションを行うことについて本学大塚眞理子が説明した。また、セッションでは、参加者でチームをつくり、模擬IP演習の一部を体験してもらうので、チームメンバーの基本姿勢について解説した。
 リフレクションについては、リフレクションの概念整理と具体的な方法および必要性について、本学兼宗美幸が、私たちが昨年の国際セミナー以降学習してきた内容を説明した。

セッション

 参加者の職種が偏らないことを考慮して、4~5名のチームメンバーでグループをつくり、1名のファシリテーターを配置した。ファシリテーターは本学のIP演習の担当教員で、専門職連携ファシリテーターとして活躍している人達である。
 チームづくりのセッション①は、「チームメンバーの相互理解を深め、チームづくりの土台を築く」をねらいに、自己紹介・他己紹介・アイスブレイク、チーム名の決定、チームのルールづくりを行なった。すぐに笑い声が聞かれるチームやメンバーの緊張感が高いチームなどいろいろなスタートであった。昼食をチームメンバーと一緒にとることで打ち解けあうチームや、チーム名が決まったことで一体感を感じられるようになったチームもあった。
 セッション②では、目標達成にむけたチームの取り組みとして、「専門職連携およびその教育実践の課題を明らかにする」という協働を実践した。第一段階の目標は、各自が抱いている課題を出し合い、「チームメンバーで共有できる共通の課題を決定すること」である。第二段階の目標は、この課題を解決するにはどうしたらよいかを検討し、「課題の解決方法をチームとしてまとめること」である。この目標達成に向けてチームでIPWを実践するというセッションである。学生と同じように、各自がポストイットに書き出し、それを提示しながらチームメンバーに説明して共有していくプロセスの体験であった。
 セッション③は、チームの取り組みについてリフレクションである。従来のワークショップではセッション②で終了であるが、IPEでは、リフレクションが不可欠なので、自分のチーム形成についてリフレクションを行なった。セッション①②を振り返り、チーム形成の分析と、自分自身のチームメンバーとしての分析を行なった。このセッションはファシリテーターが運営を行ない、チームメンバーに充分語ってもらうようにした。最後に、各チームのセッション①②③を発表してもらった。

 コメント

 Dr.GrayとMs.Gaudoinからは、本学のIP演習についてIPEの方法として高く評価してもらった。ファシリテーターの技量は対人関係のスキルであり、学生同士の相互の学びを促すよう介入の程度を減らしていくことが重要とコメントをもらった。参加者から多くの質問にも答えてもらった。

本学教員・学生のためのワークショップ

 11月31日(土)、学生8人・教職員18人の参加を得て ワークショップを開催した。越谷市中央市民会館にて行い、いつもと違った雰囲気で学びあった。

セッションⅠ(英国の実践例紹介と埼玉県立大学における実践紹介)

 最初に、全員が大きな円形にいすを並べて全員が座り、英国でのIPEの実際をDr. Richard Gray及びMs. Rosemary Gaudoin両講師から話してもらった。具体的には、3学部合同のIPEのうち、1年次に行う相互理解のための授業内容の紹介があった。例えば、最初のエクササイズでは、専門職を並べそれぞれに形容詞をつけて、相互に見せあうことを行っている。固定観念(ステレオタイプ)をどのように払拭するかの取り組みが紹介された。
 Ms. GaudoinはIPEの体験について話し、学生を見る際に自分にもあった思いこみについて話した。
 次に、今年の10月にIP演習に参加した作業療法学科の小口さんが、4日間の病院での実践の過程を、パワーポイントを用いて話した。グループ形成に関してはスムーズに進んだこと、専門実習とは違うチームアプローチの大切さ、意見を互いに言い合うことで解決が図れること、答えは一つではないこと、視野の広がりや、幅広い考え方を学んだと話した。しかし、臨床から提供された膨大な情報の処理に戸惑い、利用者と接する時間が少なくなってしまった反省や、当時はリフレクションの持つ意味が良くわからなかったと話した。
 グループに教員として参加した羽柴先生からは、ファシリテーターとして関わり、教員としての葛藤が強かったことを具体的に話し、教員間でのリフレクションの大切さ、教員ケアの必要性について話した。また、IP演習での成果を地域に還元して行くことも目標ではないかと提起された。

セッションⅡ(テーマ別の検討)

 ファシリテーターの役割について活発に議論された。教員も学生と同じで、バックグラウンドに違いはあるが、ファシリテーターの役割は同じであること、教師は上から教えるのではなく、見守っていくことであり、その際にはコミュニケーションスキルが大切になることが説明された。
 リフレクションについては、自分に対して常に疑問を投げかけることである。具体的には、①何が起きたのか、②どうしてそういうことになったのか、③今自分が見たことの裏の意味までも深く考える、④ここから自分は何が学べて、将来の実践にどう生かせるのかと問うことである。経験を学習に変える過程であるので、その手法を学ぶことが大切であるとの説明であった。
 参加した学生も教員と共に、積極的に議論に参加していた。

リフレクション・セッション

 最後に、3名の学生から、このワークショップに参加した感想が述べられた。このような形式で、教員と学生が参加して討議することが意義深いとの内容が共通する事項であった。
 それを踏まえて、英国講師2名からコメントが述べられたが、学生が参画して、職種の壁を越える形で進められている県立大学のIPEに対して評価を得ることができた。特に、ワークショップの雰囲気や、教員・学生間での熱心な討議が確実に、IPEの定着を表している旨のコメントをいただくことができた。