彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

各国におけるIPW/IPEの取り組みとその課題(2008年11月)

2008年11月28・29日の日程で、第4回IPE国際セミナーを開催しました。

講演

講演1「IPW/IPEの進展のための国際的展望」

講師 Helena Low先生 (英国専門職連携教育推進センター副議長)

 英国専門職連携教育推進センター(CAIPE)が積み重ねてきた国際的な取り組みを基盤に、IPEの国際的な潮流について各国の状況や展開を中心に紹介した。それらに共通する利用者中心主義、ケアの質の改善、さらには保健医療福祉政策への影響等について、いくつかの国々における取り組み事例をもとに紹介した。その上で、IPW及びIPEの展開にあたってなお現存する共通課題、例えばエビデンスに基づく効果の検証、質の保証や向上、持続可能性等についての提起があった。特にIPW及びIPEの持続は各国においても重要な課題であり、そのためには、関係者間のコミュニケーションや強力なリーダーシップが不可欠で、さらには、その強力な担い手の養成が課題であることが強調された。そして、それらの努力を支えていくためには、国際的な連携が求められ、そのためのネットワークの構築と展開が期待されると結んだ。

講演2「アジア・太平洋地域におけるIPW/IPEの取り組みと課題」

講師 Samantha Mei-che Pang先生(香港理工大学看護学科学科長・教授)

 香港理工大学におけるIPEの取り組みを紹介しながら、今後のアジア・太平洋地域における保健医療福祉サービスの質の向上をめざしていく上での課題について紹介した。同大学においてIPEはまだ緒に就いたばかりであり、看護学生と社会福祉学生間のものに限定されているが、地域を基盤にした実習教育をはじめ、IPEの教育手法には大きな期待が寄せられている。特に、具体的な地域での保健医療福祉課題について、学生の学びの過程における多様なデータに基づき、問題解決型の教育を行うなかで、今後、さらなる展開が期待できることを強調した。また、震災後の保健医療福祉の介入等における事例から、IPWに必要な要素を紹介し、地域に根ざしたIPWを展開するための課題にも言及した。

講演3「日本の保健医療福祉における専門職連携と埼玉県立大学の連携と統合教育」

萱場一則(埼玉県立大学保健医療福祉学部教授・埼玉県立大学GP実施部会長)

 最近30年の保健医療福祉の変化とそれを背景にした専門職連携の必要性について振り返りつつ、IPWは現場で先行し、学部教育においてIPEが取り込まれてきた経過を分析して報告した。このようなわが国におけるIPEの発展を背景に、埼玉県立大学の取り組みを3つの時代区分に分け、それらが連続線上に発展しながら今日のIP演習を中心にしたカリキュラムへ構造化させた到達点を紹介した。

分科会『大学教育におけるIPEの意義と課題-教育青果および実践現場への還元-』

 IPE国際セミナーの2日目にあたる11月29日(土)には3つの分科会を開催した。過去、3回にわたるIPE国際セミナーでは、英国のIPEの教育実践や政策、実践現場の受け入れについて学んできたが、具体的な取り組みとして2006年度から3年間、埼玉県立大学では県内の地域・施設でIP演習を試行している。
 この分科会では、これらIP演習の教育実践の成果を踏まえ、改めて大学教育におけるIPEの意義と課題について、その教育成果と施設(病院)や地域等の実践現場への還元の視点から議論を行った。具体的には、「利用者・施設・地域」、「学生・卒業生」、「専門職基礎教育」というそれぞれの立場や局面に焦点をあて、3つの分科会を設定。IPEの持つ意義を検証・確認し、さらなる課題を導くという観点から議論を深めた。

分科会1 利用者・施設・地域にとってのIPE

司会:嶌末憲子(埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科 講師)

 埼玉県立大学のIP演習は地域密着型を基盤として、県内各地域の専門職連携推進会議の参加施設を中心に実施している。IP演習で学生チームを受け入れてくださった施設にとって、IPEという教育はどのような影響があるのであろうか? また、その地域の連携・協働を促進し、地域のよりよい支援システムを構築するためにIP演習は何らかの貢献をすることができるだろうか?これまで取り組んできたIP演習および専門職連携推進会議に参加された方々に報告を受け、地域密着型のIPEの今後の発展性について議論を行った。
 
指定発言者として、2008年度IP演習受け入れ施設においてそれぞれ施設ファシリテータ(以下、施設FT)として参加された方から報告をいただいた。氏名・所属・報告テーマは以下のとおりである。

  1. 各務初恵(済生会川口総合病院看護部 副部長)IP演習を受け入れた病院にとってのメリットと課題
  2. 大久保築世(国保町立小鹿野中央病院看護部 部長)施設ファシリテータを体験して考えるIPEとIPW
  3. 山路久彦(社会福祉法人みぬま福祉会 さいたま市大宮区障害者生活支援センターみぬま 相談支援専門員)地域において多機関・多職種を調整する生活相談機関でのIP演習
  4. 原嶋 創(介護老人保健施設プルミエール リハビリテーション科 主任)施設ファシリテータとしての役割を体験して
  5. 福田弘昌(比企福祉保健総合センター 計画推進担当部長)センターを拠点に展開する地域を基盤としたIP演習について

 主要な論点は以下の3つであった。この分科会には、Helena Low(ヘレナ・ロウ)先生が参加した。

IPEの事前準備の大切さ

 IPEには多様なメリットがあることを踏まえつつ、事前準備が重要であること、そのための具体的な提案がなされた。
 
IPEは利用者にとってメリットを感じたという報告を基盤に、具体的な提案がなされた。施設FTの事前学習、施設FTと教員FTとの密な連携等が不可欠。IP支援計画は協働を学ぶツールであり、FTはどうしてもその内容に介入したくなるが、あくまでも、学生の協働を促進するためのツールという見方が求められる。
 さらには、IP演習を充実させていくために、施設FTは複数配置をしてはどうかという具体的な提案もあった。
 演習のゴール設定には各学科による特徴も見られ、その点を踏まえたFTとしての関わりが求められる。
 また、IP演習の報告会は地域で開催されるが、事前に施設報告会を設定しているケースも多かった。地域での報告会には、関係したすべての職員が出席する訳にはいかないので、施設内報告会は施設内の多職種の専門職にも良い影響を与えることが指摘された。家族や本人の参加も得やすいのも施設内の報告会の特徴である。
 一方全体での報告会は、他の施設での取り組みが良くわかる。学生が他のグループの発表を聞き、自らのグループの支援目標等と違っていた場合の受け止め方を適切にフォローしていくことで、その長所をさらに生かすことができる。

IPEのメリットについて

 IPEのメリットを、利用者や家族、施設、施設のFT自身、地域というそれぞれの観点から議論した。例えば利用者にはフィードバックも重要だが、学生の内容をそのまま返すということではなく、多様な支援の方向性のひとつとして生かしていくことが重要となる。
 
協力いただいた利用者や患者の方に感謝する形で、学生がチームとしてフィードバックする姿勢の重要性も指摘された。
 施設にとっては、多様な専門職員が、報告会において特に他の領域の視点等について刺激を受けることがメリットのひとつである。施設の中には、IPE委員会、IP推進のための会議を立ち上げた例もある。IP演習を実施することで、施設内での多職種理解が進んだとの報告が目立った。
 熱心な施設FTが増えることがIP推進の要であることが実感させられた。

施設FT研修の充実

 施設FTにとっては、事例の蓄積、施設内での進め方の工夫が不可欠であり、加えて地域での専門職連携推進会議の重要性が認識された。そのために、施設FT研修のさらなる充実が鍵を握る。
 
また、専門職連携推進会議は、地域の課題を共有する上で重要な意味を持つ。来年度以降、埼玉県内では10の圏域において、専門職連携推進会議を中核にした取り組みが進む。保健医療福祉分野における他の諸会議との整合性も必要である。
 IP演習の実施の裏には、実に周到な施設並びに施設FTによる準備がなされていることが改めて浮き彫りになり、事前準備・事後の成果の活用が求められている。
 同分科会に参加していただいた埼葛南専門職連携推進会議の議長からは、来年度からはいよいよIP演習も全面的な展開となるため、理念の共有化はもちろんのこと、さらに具体的な問題の対応が課題との指摘があった。
 全体報告会の進行役からは、施設でのIP演習の受け入れが進む中、施設の中での課題の共有化を進めるとともに、地域における課題の共有化へと広がることで、学生はもとより、地域の施設やFTにとってのメリットが深みを増すのではないかとのまとめがあった。

分科会2 学生・卒業生にとってのIPE

司会:島崎美登里(埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科 教授)

 埼玉県立大学では、開学以来「連携と統合」の教育に取り組んできた。1年次のフィールド体験学習は5学科合同でフィールドに出向き、利用者とのコミュニケーションを図り、ヒューマンケアのマインドを学んでいる。また、4年生でもIP演習という地域で保健医療福祉の連携を学ぶ合同演習が実施されるようになった。
 
従来の学科ごとの教育とは異なる教育を体験した卒業生は、IPEをどのように受けとめているのだろうか? 在学生はどのような戸惑いや期待を寄せているのだろうか?このような問題意識を踏まえ、IPEを体験した卒業生とIP演習を今年度体験した4年生、学生の自主的な企画を行った3年生、他大学のIPEに参加してきた1年生などの報告を聞いて、主体的にIPEを学ぶことについてディスカッションした。
 指定発言者としてIP演習に参加した埼玉県立大学の学生、卒業生、IPE推進のための学生組織である「あいP」の活動に参加している学生が報告を行った。氏名・所属・報告テーマは以下のとおりである。

  1. 海老原直子(看護学科1年):IPW体験1年目:共に学ぶ保健医療福祉、フィールド体験学習、IPW-Day参加
  2. 高市 朋(看護学科2年):フィールド体験学習・あいPの活動に参加して
  3. 笠原由貴(作業療法学科3年):あいPの活動とIPW2の取り組み
  4. 富田文子(社会福祉学科4年):IP演習に学ぶ専門職連携
  5. 長谷川美奈(卒業生、長瀞町役場 保健師)

 卒業生にとってのIPE分科会では、学生や卒業生にとっての意義、学び、改善点について話し合った。先ずは、学生、卒業生から発表の後、全員でディスカッションを行った。なお、この分科会には、Samantha Mei-che Pang(サマンサ・パン)先生が参加した。
 報告とディスカッションでの主要な論点は以下のとおりである。

  • 自分の専門と他の専門性を考えることにより、利用者にとっての意義を再確認することができた。
  • 他学科の学生との交流、主体的学習のきっかけにもなった。
  • フィールド体験学習は、社会人としての態度を学ぶことにもつながる。
  • 卒業してしまうと、価値観の違う人々と話し合うことは少なくなるので、IP演習は学生時代に学べる貴重な機会ではないか。自らの専門性を振り返るチャンスであり、自らの学科と他学科の特徴を学ぶ点が大きなメリットである。
  • IP演習は専門知識などを身に着けるチャンスにはなるが、学生がこの演習を通じてどのような学習を期待されているのかについていまひとつ見えない側面もある。その背景のひとつとして、IP演習に対する施設FTと教員FTとの意識や目標のずれがあるのではないか。
  • 今後は、教員同士でのIP演習やIPEに対する認識の共有化が大事。
  • 施設の人々とより突っ込んだ話し合いが不可欠。
  • 学生が演習を行い利用者の援助計画を立てることが、利用者に何らかのメリットを提供できるのかという点について、学生にとっては確信できにくい、いわば「もやもや感」が残る一面もある。
  • 利用者にとって具体的に何がメリットになるのかを考えていくべきである。
  • 専門性を培うことと、連携すること、換言すれば、「縦糸」、「横糸」の関係や棲み分け、整合性を明確にする必要がある。
  • あいPの活動の報告と課題が提示され、学生の主体的なIPEへの参加の状況と課題が明らかになってきた。
  • あいPでは、昨年と今年、講師を招聘し活動を展開した。
  • 熱心な学生が多い反面、無関心、批判的な考えの学生も存在する。
  • 今後の課題は、学生と教員の連携に尽きる。

 さらに全体報告会では、今年度のIP演習に参加した学生から、「キーワードは、学生にとってのIPEの意義だと思う。現実には、学生によって受け止め方に温度差がある。1年次にフィールド体験学習という科目はあるが、4年次のIP演習参加までの間を補完する、何らかの対応が必要。あいPという学生主体の活動もあるが、大学側の積極的なサポート抜きには効果が上がらないという側面もある。特に、IPEの必要性をすべての教員に意識づけるための働きかけが大事。」という発言もあり、参加者から賞賛の拍手が沸き起こった。
 全体報告会の進行役からは、この分科会での学生・卒業生のIP演習実践経験に基づく具体的なメリットが紹介されたが、改めて、もしIP演習がなかったら、この分科会での発言に代表されるような学生の学習や気づきはどうであったかを考えることが、メリットを検証するひとつの方向ではないか、とのまとめがあった。

分科会3 専門職基礎教育にとってのIPE

司会:鈴木玲子(埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科 准教授)

 埼玉県立大学をはじめ、他大学でもIPEを導入する大学が増えてきており、そのIPEにおける評価が様々におこなわれている。そこでこの分科会では、埼玉県立大学、群馬大学医学部保健学科で実施されたIP演習受講学生の評価結果の分析、およびIP演習トライアルにファシリテータとして参加した教員の体験報告などから、専門職基礎教育におけるIPE経験の意味や意義について意見交換を行い、IPEの教育分野での発展性についてディスカッションした。

 指定発言者の氏名・所属・報告テーマは以下のとおりである。

  1. 小河原はつ江(群馬大学医学部保健学科検査技術学専攻 准教授):3年生で行っている2学科合同実習の評価について
  2. 常盤 文枝(埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科 講師):卒業生および在学生を対象としたIPEに関する調査について
  3. 川俣 実(埼玉県立大学保健医療福祉学部作業療法学科 准教授):IP演習試行で教員FT担当経験から考えたこと
  4. 鈴木玲子(埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科 准教授):IP演習・教員ファシリテータ担当経験から考えたこと
  5. 市村彰英(埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科 准教授):私の経験からIPEを考える

 他大学の取り組みとして、群馬大学における実践評価結果について報告するとともに、埼玉県立大学からは、卒業生、在学生を対象とした調査結果の発表を、また今年度のIP演習に大学側FTとして臨んだ教員の体験を踏まえた報告がなされた。
  意外にも専門性に関連した項目は、IPを体験した後の方がむしろ低いという調査結果が報告された。演習をしたからこそ、多職種との連携に「難しさ」を実感することになったのかもしれない。また、在学時と卒業時の比較からは、卒後1年目になると、IP演習経験群が他職種理解において、有意差をもって高いことが推察されている。学生時代のIP演習体験が、卒業後の実践現場においても少なからず影響していることのエビデンスになりそうである。本学ではIP演習を学外で行っているが、他大学では学内で模擬患者や紙上事例を利用し、準備を充実させているという報告もなされた。専門職連携を単に一緒に体験するだけなく、学生が自らの対応を他の学生に見せて相互に学びあう、という側面もある。
 IP演習の目標達成については、学生ばかりでなく、教員が迷いながら改善を目指していることがわかった。
 基礎教育としての専門職連携では、ケアプランを作成するのは難しい側面もある。先ずは、自分の立場から意見を述べることも大事である。目的がケアプラン作成になってしまう場合があるが、あくまでも、それぞれの連携に向けた思いを相互に伝えていくことが課題である。
 FTの決め方、患者の選び方についての質疑もあり、これからの整理が必要と実感された。
 全体報告会の司会担当者からは、他大学での取り組みの多様性は、それぞれの大学のカリキュラムの問題なのか、それとも地域や前提条件の問題なのか、という指摘がなされた。分科会担当者からは、「埼玉県立大学は多様な地域・施設でIP演習を行う。医療系の大学になると、病院が中心のケースが多い。いずれにせよ、協力支援体制が不可欠。ケアプランの作成という目標以上に、専門職について見学することに優先順位を置いている取り組み例も見られる。最終的にはケアカンファレンスへの参加も意図しているプログラムもある。協力体制如何なので、その点が特に重要である。」との指摘があり、それをまとめとして確認した。

全体報告会での討論及び海外講師からのコメント

 3つの分科会の報告と、それに基づく質疑応答を踏まえ、全体を通しての議論を行った。主要なテーマとして、以下の 2つのキーワードに添って討論を行った。

IP演習(広くは、IPE)のメリットに関すること

 実践現場への還元を具体的にはどのように図っていくのか。学生が演習の成果として提案した支援計画、ケアプランが現実に役立つのか。あるいは、すぐには役立たないとしても何らかの形で利用者や患者、あるいは家族にフィードバックできないかについて議論した。
 これに対して、利用者や患者、あるいは家族に対する説明の重要性が先ず指摘された。学生の計画は未熟な点もあり、施設にも患者にも負担がかかることは確かな側面もある。しかしながら、施設FTや関係者は暖かい眼で見守っていてくれることを真摯に受け止め、少しでも利用者・家族にとって役に立つ方向性をめざすことは重要であるとの意見も寄せられた。メリットを多元的に見るべきことが大切である点も確認をした。

専門性と連携性に関して 時間軸で捉えること、連続性で捉えることの重要性

 IPEにおいて、専門性、連携性は二項対立ではなく、密接に絡み合いながらともに発展していく視点が必要ではないか。
 これに対して、大学の教員FT経験者が「理学療法学科学生としてではなく、『人』として、対象となる人のことを考え動いてみたい」と述べた学生を例示し、対象者への統合されたケアの提供の意義を学生が感じとってくれていることの紹介とした。大学の「仕込み」を超えて、学生は専門性と連携性の両立について理解をしており、学生への絶大な信頼がIPEの基盤でもあることが述べられた。
 さらに、「担い手は人」に尽きるという視点で、教員が先ず連携の学びをすることが必要であることが述べられた。
 IP演習準備の段階で、施設FTはその趣旨を施設内の関係者に丁寧に説明している。一方、大学内での説明について必ずしも充分ではないのではないかとの意見も述べられた。現場ではIP演習における利用者へのメリットを関係者が共有しやすいが、教育現場である大学は、学生へのメリットを説明することにより学内の理解を高めることが大事である。
 また、施設FTを担った参加者からは、「学生の学習の課程を理解することが、施設内での連携協働をさらに進める上でとても役に立った。学生が施設の現場に参加をしながら演習に取り組む際に、情報収集やディスカッションだけに終わらないためにも、各職種に直接触れあうことが重要である。そして、決め手は『人』。施設FTと教員FTがお互いの力量、専門性を理解しあいながら、学生の演習を受け入れる環境づくりが大切である。」と結んだ。
 最後に、Helena Low(ヘレナ・ロウ)先生から全体報告会を振り返って以下のコメントをいただいた。
 「佐藤学長のもと、継続的、長期的に取り組んできたことが実績となってGP(現代的教育ニーズ取組支援プログラム)を得ることにつながったことを確信した。同時に、学生の熱意に将来のIPEの擁護者(チャンピオン)が存在することを実感した。
 参加した分科会1ではある課題が浮き彫りになった。それはFTの役割についてである。準備に統一性を持たせることと継続的なサポートの必要性の指摘である。学生に対するIP演習の実施に向けた準備の必要性も強調されたが、これらが「問題」として意識されていることが、まさに改善に向けての鍵であることを実感した。とかく学生の知識や理解に眼を向けてしまうが、協働する技術を育成することがIPEでは大事なので、今後もその点に留意していただきたい。報告や議論の全体を通して、利用者(患者)に対するメリットに注目していたことも素晴らしい。連携できることは、専門職であることの一部であることを改めて大事にしていきたい。」

まとめ

 IPWが多職種間の協働作業であるならば、今回の分科会で焦点をあてた、3つの立場や局面は、相互に連携し、大学教育におけるIPEの意義をさらに高めていくための重要な要素であり、パートナーである。分科会で議論された意義や課題が、ひとつの方向性に収斂されるならば、それこそが、各国における実践に学びながら4年間にわたって取り組んできた国際セミナーの到達点でもあり、また、新たなスタートラインであると確信した。そして、IPEの成果は、具体的なアウトプットであると同時に、そのプロセス自体が「成果」の一部であることを確認したい。