彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

一人ひとりに望ましい生活空間をデザインするために

日本工業大学 建築学部 生活デザイン学科

瀬戸眞弓教授

特別なニーズを知り、生活空間を設計する

「授業は、生活空間の設計に必要な福祉に関する知識を盛り込んだ構成にしています。住み手となる人々には、それぞれの生活の仕方がありますが、学生は、高齢者や障がいをもった方たちの行動特性をよく知ることから始め、不自由を伴う活動をサポートし、リハビリテーションの効果の継続を妨げない、そして介護者の安全を確保した生活空間の造り方を学びます」

 沢山の設計図が広がった部屋で、笑顔で語ってくださっているのは、日本工業大学の瀬戸眞弓教授です。瀬戸教授は、住居学の専門家であると同時に、社会福祉学も専門とされている先生です。大学では、1年生の入門科目から4年生の卒業研究、さらに大学院においても、福祉と生活環境に関する授業を担当されています。

技術的側面に裏付けられた空間を提案するために【掲載用】瀬戸先生2

彩の国連携力育成プロジェクトの専門職連携実習の舞台は、主に保健医療福祉分野の現場。生活環境デザイン学科の学生にとっては、全く専門外の用語が飛び交い、学生の多くはその場で面食らうようです。瀬戸教授は、たとえ建築分野の学生であっても、実習で使用される保健医療福祉分野の専門用語をまずは学んでほしい、と実習の課題を指摘します。それによって学生たちには、自分たちで持ち合わせていない専門知識の内容にまで踏み込んで、グループメンバーに尋ねる力、対象となる人に関する知識や情報を共有する力を身につけることが期待され、さらには具体的に技術的側面に裏付けられた、生活をサポートする空間を提案できるという『理想』が描けてくる、と瀬戸教授は語ります。

「“デザイン”という言葉には、美などの追求のみに夢中になっても許されるという意味合いがあるような気がします。しかし、私たちが対象とする人たちは、環境により配慮を求めなければならない人たちです。デザインする者には、冷静さが要求されます。そこで生活する人たちにとって安心、安全、堅牢な生活空間づくりを進めていく上で、心身に関する知識や情報をもっと得たいと思い続けます」

2013年夏期に行われた試行実習では、学生が大学の専門分野を超えて、互いの個人的なことまで話し合っている情景をみて、瀬戸教授は、一つのテーマに対して時間をかけて話し合うことで互いの信頼関係が構築される可能性を、そして個人差はあるものの、学生のコミュニケーション力の潜在的な高さを感じたのだそうです。学生がお互いに高め合えることは凄いこと、と瀬戸教授。

「これからの時代は、知恵を出し合って情報を共有し、集団で問題解決をしていかなければならないほど、世の中は多様化、複雑化していますが、その始まりを見たように思いました。将来、実社会においても、学生さんたちにはこの連携教育での経験を活かして、それぞれの専門領域での仕事を発展させていって欲しいと願っています」

世界で感じる、多職種連携の変わらない重要性

瀬戸教授は、2013年9月にスロベニアで行われた欧州IPE学会(4th European Conference on Interprofessional Practice & Education)に参加されました。学会では、緊急時の患者への対応における専門職の連携が重要項目として議論されており、連携の在り方は変化しうるものであっても、その重要性は変わらないと感じたそうです。

「入院・療養中の室内環境が気になります。入院している期間が長ければ長いほど、病棟は生活する場にもなってくるからです。特に子どもたちの長期療養期間においては、心落ち着く良い生活環境の中で、成長期を過ごしてもらいたいと思います。もちろん、そういった環境をデザインするためには、そこで仕事するスタッフの動きや、必要とされる医療機器の大きさや数量などに関して十分な情報が必要です。ベッド周りの収納機能が整った、落ち着いた環境の中で子どもらしい心を育んでもらいたいと思います。そうした環境づくりを実現するためには、それぞれの専門職が、自分の職域を超えて情報交換をしていこうとする心意気が、まずは必要ではないでしょうか」

形のない「プロセス」と「成果」の先に【掲載用】瀬戸先生1

工学系とIPEとの学習の違いとして、『プロセス』の重視を挙げる瀬戸教授。

「工学系では、最終的にカタチになる物を作ることを目標にずっと学習を続けてきたと思います。ですから、「途中」よりも「成果」が大切だと考える傾向がありました。私自身も、当初、IPWやIPEにおいてプロセスの内容が、予想以上に重視されることに驚きました」

保健・医療・福祉・工学を含む科学の世界の進歩についていくために情報を常に更新するうえでも、職能的に良い関係を築いた、それぞれ異なる専門職の仲間たちと連携して仕事をすることは大切、と瀬戸教授は語ります。

「その点からも、この4大学の連携プロジェクトの活動意義は大きく、さらにはこのプロジェクトの発展の先に、建築領域に限らず、工学系全般による物の研究、開発、及び成果があってもよいかと思います」