彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

専門職連携教育で「自ら学ぶ力」を

埼玉医科大学 米岡裕美講師

大人が学ぶということ米岡先生

埼玉医科大学は、福祉社会の実現に寄与すべく、豊かな人間性と幅広い知識・技術を身につけた優れた医療従事者の養成を目的として、1972年に毛呂山町に設立された大学です。この医療系総合大学にあって、今回のインタビューゲスト・米岡裕美講師のご専門は医学ではありません。『教育学』、具体的には、教育行政学、生涯学習論、成人教育学が米岡講師のご専門です。

「生涯学習というと子どもから大人まで含むんですが、私はどちらかというと『大人が学ぶこと』に興味があって、『大人が学ぶとはどういうことなのか』、『大人が学ぶということを支援するにはどうすればよいのか』を考えています。

医療福祉の分野でも、医師が自分の専門性を高め、フォローアップをし続けるために、生涯学習が重要だと言われているのですが、私が研究していることはもう少し幅が広く、例えば高齢者が自分の生きがいを見つけるための学習だったり、企業で働く社会人が自らをスキルアップするために学ぶことだったり。そのような幅広い学習を含めた『生涯学習』です」

普段学内では、専門職連携教育関連の授業で教えるほか、少人数教育のグループワークにチューターとして参加することもあるのだそうです。今後は、医師と患者のコミュニケーションを向上させるための教育にも携わっていくことになりそうとのこと。

 

自分が変わる体験

「『大人の学び』というと、やはり『職業人としての教育』が入ってくるので、私としては、職業人、社会で働く人が何を学べばいいのか、現場の人は何を学んでいるのかということに興味があって、そこが自分の研究とマッチしていると感じています」

彩の国連携力育成プロジェクトの中で、米岡講師はIPW実習の試行事業などの教員ファシリテータを担当するほか、教員ワークショップ等を通じて、大学間で連携した共同開講授業等を開発する取り組みなどにも携わっています。様々な取り組みに参加する中で、専門職連携教育における学びについて、教育学の視点から次のように語ります。

「教育の方法としてとても面白いと感じていて、学校で教えてくれる知識だけでない部分を学んだり、逆に、学校で学んだ知識を実際には具体的にどう生かせるのかを知って知識を身につけていくためのプロセスにもなります。普通、『学習する』『勉強する』と言った時に、皆さんイメージとしてお持ちなのは、知識やスキルが『増える』『向上する』というものだと思います。専門職連携教育では、知識そのものはもちろん、他者の考えを知る、コミュニケーションスキルがアップするなど、増えたり向上したりする部分も多いのですが、それだけではありません。特に教育学として『大人の学び』を考えるにあたっては、『変容する』、つまり、自分が変わること自体が学び、という考え方があって、IP演習などの現場での実習を行っていると、学生さんたちも、他の専門職の人たちの視点とか、実際の現場の生の声を知ることで、ものの見方とか考え方が変わるっていう、『自分が変わる体験』をしているのではないかと思っています」

 

『視点』の専門性と共通性

「実際に専門職連携教育の実習に参加されて、どのようなことを感じましたか?」と尋ねると、米岡講師は、それぞれの分野の学生がこれまで受けてきた教育によって、専門職としての視点を各々獲得していることにまず驚いたのだそうです。

「だからこそ、自分の視点での『当たり前』が他の人の視点での『当たり前』でないということに気づきにくいのですが、専門職連携教育に参加することでそれに気づく瞬間がいっぱいあるのが、まずひとつ面白い。もうひとつ、専門職それぞれで視点を獲得していると言いながらも、それでもやはり彼らが元々患者さん中心、利用者さん中心で『この人のことをケアしたい』という気持ちを持つ、根底はそう遠くないところにいる人たちだ、と感じます」

 

自ら学ぶ力米岡先生2

「学生のディスカッションを見ていて、素直にわからないことを尋ねられることが大事だと思うんですが、そういう場を作るのが教員ファシリテータの役割だと思っています。あとはやはり、『何のためにやっているのか』を、学生さんたち自身が『授業だからやる』とか、『やれと言われているからやる』というのではなくて、『自分にとってどんな意味があるのか』『自分はここから何が学べるのか』と考えることや、『受け入れていただいている施設の方々にとって、自分たちの実習はどんな意味があるんだろう』と考えることができると、単なる教育の一環というだけでなく、人間的なかかわりができるのではないかと感じます」

専門職連携教育の実習には、『違う専門職の人が何を見てどんなことを考えているのか』という『相手を知る』という意味と、『自分を相対化させて、自分のものの見方や、自分の専門性に気づく』という意味があると語る米岡講師。

「日常的にその学ぶ力を持ち続ければ、大学を卒業した後も、どんな人からでも学ぶことができるのではないかなと思います」

この、どこに行っても通ずる学びの力である『自ら学ぶ力』を自覚し、養うことができれば、同じ『学ぶ力を持った人間』として、相手に敬意を払えるようになるのではないかと、米岡講師は言います。

 

大学の文化、風土、考え方を超えて

最後に、米岡講師に4校の大学間連携の取り組みについて、今後の可能性を語っていただきました。

「各大学が、それぞれ大学の文化、風土、考え方があると思うんですけれども、『自分の当たり前が当たり前でなくなる』とか、『自分を相対化することで気づく』といった学びは、大学についてもあてはまると思います。各大学の方法論や考え方を知ることで、さらに教育しやすい、働きやすい環境を各大学が作っていければいいなあ、と。

大学は自分たちで変わろうとする努力もしているのだけれど、自分1人の力でやらずに他の人の視点を借りると、もっと視野の幅が広くなるかもしれないし、もっと楽になるかもしれない。あとはやっぱり、『協働で何かやる』ことで、お互いの知らない世界を知ることが出来れば、楽しそうだなと思います」