くりの木薬局(有限会社フォレスト調剤)
管理薬剤師 山﨑あすか さん
同世代だからこそ生まれるコミュニケーションがある
くりの木薬局では4年前から、埼玉県立大学(以下、県立大)が行っているIPW実習の実習先として学生たちを受け入れています。ここでの実習内容は、調剤室の簡単な案内と、当薬局が在宅医療で関わっている地域の高齢者施設でのフィールドワークです。
初年度は私もチューターとして参加しました。学生たちは普段は足を踏み入れることのない調剤薬局の内部に新鮮な驚きを感じてくれたようですが、実習内容としてはやはり高齢者施設でのフィールドワークの方が強く印象に残ったようでした。保健医療福祉を専門に学んでいる学生たちですから、そうなるのも当然といえば当然なのですが、薬剤師である私にとっては「何だか物足りないな」というのが正直な思いでしたね(笑)。
それで、翌年の実習で一つ新たな試みをしてみました。ちょうど薬局実習に来ていた薬学部の学生を、見学者として混ぜてみたんです。
そうしたら県立大の学生たちから「せっかくだから、薬学部の学生の意見も聞いてみたい」という反応があって。私と学生とでは年齢が離れていますから、「間違ったことを言ってはいけない」という消極的な姿勢になってしまうのだと思うのですが、同世代同士では活発なコミュニケーションが生まれるということを実感しました。
一方の薬学部の学生にとっても、他分野の学生から質問されることはとても新鮮だったようです。薬学部の中にずっといれば「薬剤師はどういう職業なのか」ということは当り前すぎて考える機会がありませんが、他分野の学生からはそういう根本的な質問もされますし、説明するときにも薬学用語は通じませんから、かみ砕いて説明する必要があります。薬学生にとっては、自分の話が通じない、という経験が非常に意義のあるものだったようです。
専門分野によって、患者さんを見る視点は違う
それで、次の年からは高齢者施設での実習にも薬学生に参加してもらうようにしました。すると今度は他分野の学生との視点の違いも感じられるようになります。
薬剤師は薬を通して患者さんを見ますが、例えば看護師であればケアの部分から、理学療法士や作業療法士であれば患者さんの動きから、そして歯科衛生士であれば患者さんの食べ方から、と職種によって患者さんの見方はそれぞれ違います。その違いが分かるだけでも、学生にとってはとても良い経験になります。
というのも薬剤師の場合は一旦社会に出てしまうと、自分で努力をしなければ外の世界を見る機会がなかなかありません。病院勤務ならともかく、調剤薬局の薬剤師はその傾向が強いです。特に新人の頃はまずは職場の流れについていくだけで精一杯ですから、他の職種と話をする機会を作ることは難しいと思います。
ですから学生のうちにそうした経験ができるのは本当に良いことです。しかも、今の学生たちはメールやSNSでつながっていますから、実習後にも、あるいは社会に出てからでも連絡を取り合って相談ができますよね。
困ったことがあるなら職場で相談すればいい、というのもその通りなのですが、同世代だからこそ聞きやすい、ということは絶対にあります。
しかも、これからは埼玉県内の4大学が連携することになるわけですから、卒業後に同じ地域で働くさまざまな職種のネットワークができるわけですよね。日本工業大学の学生も加わるということは、医療福祉系とは全く違う視点もプラスされることになるのでしょう。そこまで幅広い「同期」が作れるというのは、本当に貴重なことだと思います。
これからの調剤薬局には地域連携が必須
先ほど、調剤薬局の薬剤師は外の世界との接触が少ないと言いましたが、これからの社会のことを考えるとそうも言っていられません。
国の方針として在宅医療が推進されるようになってきていますし、実際、当薬局でも在宅医療に関わっています。すると、ケアマネジャーさんや訪問看護師さんに「薬の管理をしてほしい」という要望の声をたくさんもらいます。
在宅医療において薬剤師が果たせる役割は多々あります。専門性を発揮するのは当然ですが、実際に関わっていて私が感じているのは、医師と在宅医療の現場との橋渡しをする、という点ですね。
例えばヘルパーさんが「薬の副作用が出ているかもしれない」と感じたとしても、医師にそれを伝えることには少し勇気がいるそうです。ヘルパーさんは在宅の患者さんに一番近い存在ですから、色々な変化を感じ取ることができるのですが、その一方で医師との関係性はあまり近くありません。でも薬剤師であれば、薬学的な観点から「患者さんがこのような状況なので、確認をしたいのですが」と言いやすいですよね。その役割を担ってほしい、と依頼されることはよくあります。
薬剤師に「できること」と「できないこと」
薬剤師としての専門性を発揮する場面としては、例えば「この薬の量が増えると、もしかするとふらつきが出たり、足が出にくくなったりするかもしれないから、患者さんがつまづかないように気を付けてあげてください」ということをヘルパーさんに伝えたりもします。
また逆に、他の職種の助けが必要になる場面としては、例えば「錠剤が飲みづらい患者さんなので薬剤を粉砕してほしい」という依頼が来た時に、どの程度の大きさにすればいいのか、というのは薬局の薬剤師には分かりません。その患者さんの実際の状況を見ていませんから。
そこで普段から地域内で多職種連携のコミュニケーションが取れていれば、例えばその患者さんの食事風景を知るヘルパーさんに「どのくらいの大きさなら飲めると思いますか」と相談して、「あの人だったら錠剤を半分にすれば大丈夫だと思います」という返事をもらうことができるわけです。
実際にはそうした連携は、「多職種連携」というような堅苦しい雰囲気ではなく、ほとんど雑談のように行われています。でも、お互いの垣根をなくすという意味では、それが正しい姿なのではないかとも思います。
そうした連携は、同世代でやるとさらに充実したものになるはずです。IP実習の学生たちを見ていると、期待が大きく膨らみますね。