彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

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支援が必要な当事者たちが、腹の底から笑えるように

栗林福祉建築事務所  

二級建築士/福祉用具専門相談員/二級福祉住環境コーディネーター

栗林稔昌 さん

障がいを負って在宅に戻るという不安

kurihashi1 栗林福祉建築事務所では、私自身が事故で脊髄損傷を負った経験を基に、障がい者や車いすの方、身体機能が低下した方のための住宅の設計を行っています。
 私が怪我をしたのは平成6年で、在宅に戻ったのは平成8年でした。介護保険制度がスタートする前でしたから、今ほど福祉制度が充実しておらず、私自身も、私を支えてくれた家内も、本当に苦しい経験をしました。
 当時に比べれば、今は社会的にもずいぶん体制が整ってきていますが、それでもまだまだ十分とは言い難い状況だというのが正直な印象です。
 事故や病気で障がいを負った人は、それまでの自分とのギャップに苦しむことになります。病院にいる間は医療スタッフが付いてくれますから、まだ安心感もあるのですが、いざ在宅に戻るとなると、生活のあらゆる場面で不安が付きまとうことになります。
そうした方々が在宅に戻って生活していくためには、4つの面で環境整備が必要だと私は考えています。その4つとは、医療、行政サポート、住宅、そしてピアサポートです。

我慢を強いられるのは本人だけではない

 1つめの医療からお話すると、障がい者にとっては、退院後に病気になった場合に一体どうすればいいのか、という不安は非常に大きいものがあります。また、入院中はリハビリができますが、同じように在宅でも続けられるのかという不安もあります。ですから在宅に戻るにあたっては、まずは何よりも医療関係者といつでも連絡を取れる環境を作ることが必要です。
 2つめの行政サポートは、充実した支援を行うため不可欠な介護サービスの活用や、住宅改修に関するものです。それらの環境整備には費用がかかりますから、行政による医療制度などのサポートは重要な役割となります。
 そして3つめの住宅が私の専門でもあるのですが、まず大前提として車いすの場合は、家の外では100%の我慢を強いられることになります。例えば、以前からの行きつけのラーメン屋に行きたいと思って、実際に行ってみたとしても、入口に段差があればその時点でもう店に入ることができません。車いすの生活は、そうした我慢の連続なんです。
 だからせめて家の中だけでも、家族全員が腹の底から笑えるような環境作りが必要だと私は思っています。外で我慢して、家でも笑えないなら、じゃあどこで笑えばいいのか、となりますから。
 4つめのピアサポートは、障がいを負った本人にとっても、支える家族にとっても、「この先どうやって生活していけばいいのか」という不安を少しでも和らげるために非常に重要な要素です。気持ちの面でのサポートですね。特に支える側の家族には社会的なケアが行き届いていないように思えるのですが、家族が気持ちのはけ口をもつことがとても大切です。障がい者を抱えたことで我慢しなければならないとがあっても、それを本人には言えないじゃないですか。そうすると気持ちが滅入ってしまって、家の中から笑顔が消えてしまいます。本人だけでなく、家族にとっても本音を話せる相手が必要なんです。

無駄な労力と時間と費用がかかる現状の打破を

 ピアサポートはともかく、先に上げた医療・行政サポート・住宅の3つは、障がいや機能低下を負った人にとっては現実問題としてなくてはならない要素です。
 ところが実際には、フタを開けてみるとその3者がタッグを組んでいない、という状況が存在しています。それぞれが自分の専門性にだけ閉じこもって、違う分野については「それは私の担当ではありません」となりがちです。
 しかし本来であれば、その3要素は切り離してはいけないものです。例えば住宅について言えば、障がいを負った人の状態によって適切な改修方法は変わってくるわけです。一言で「車いす」といっても、ちょっとした段差なら乗り越えられるのかどうか、車いすからベッドに自分で移ることができるのかどうか、そもそも障がいは安定しているのか進行性なのかなど、医療関係者に確認しなければ分からないことはたくさんあります。
 また、住宅改修のために利用できる行政サポートは制度としてはさまざま存在していますが、建築士と行政との連携が取れていなければ、無駄な費用がかかってしまうことは目に見えています。
現時点では残念ながら、それらを一括して相談できる窓口が少ないために、当事者たちは一体どこに何を相談すればよいのかが分からない状況にあります。ただでさえ予想外の出来事で頭が混乱しているのに、追い打ちをかけるように無駄な労力と時間と費用を強いられるわけです。
 ですから今回、埼玉県内の4大学が連携するという話を聞いて、「それは本当に必要なことだ」とすぐに思いました。医療スタッフ、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカー、そして建築系の職種などがスムーズに連携できるようになれば、これまでの障がい者とその家族が強いられてきた我慢をぐっと軽減することができます。毎日が四苦八苦の当事者にとって、それは何よりの救いになると思います。

まずは現場を見ることから始めてほしい

kurihashi2 百聞は一見に如かずと言いますが、取りあえず現場を見る、ということは本当に大切です。学生たちにも、是非実習でその点を経験してほしいと思います。