彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

自分の考えをしっかり伝え、相手の意見を尊重する経験を

霞ヶ関南病院 作業療法士 三木静加 さん

「患者さんの生活の再獲得」が作業療法士の仕事

miki1 現在は産休をいただいているところですが、私が作業療法士として勤務している霞ヶ関南病院はリハビリテーションを主な役割としていることもあって、チームでの関わりが当り前の環境です。
 一人の患者さんを担当しているすべてのスタッフが、あらゆることで連携しながら動いていますし、逆に誰かが独断で物事を進めようとしても通らないようなシステムになっています。
 ですから、担当するケースによっては理学療法士、言語聴覚士、看護師、介護士、薬剤師、栄養士、医療ソーシャルワーカー、医師等、という全ての職種と連携しますし、また同じ作業療法士や同じ病棟に所属しているリハビリスタッフにも、私が行っていることの意図や、それが「合っているかどうか」という点も含めてすり合わせておくことも大切ですね。
 作業療法士の仕事を一言で言えばリハビリということになりますが、個人的には、病気や障害を持った方が生活を再獲得できるように関わる仕事だと思っています。ただ動けるようになるだけではなく、生活がより良いものになるように、という意味で関わっていけるように、ということをいつも意識しています。
 そうすると、必然的に作業療法士の専門性の範囲は幅広いものにならざるを得ません。 例えば同じリハビリスタッフである理学療法士と重なる部分もありますし、私が大事だと思っている生活については、入院患者さんの身の回りのお世話もする看護師と重なる部分も出てきます。
 それで働き始めた当初は自分の専門性を見失ってしまうこともあったのですが、4~5年経験を積んでいるうちに、「何でも屋です」と開き直れるようになりましたね(笑)。専門性があることは大前提ですが、かといって私が行う全てのことが作業療法士でなければできないことである必要はないし、他の職種と一緒にやった方がいいのであれば一緒にやりましょう、と考えられるようになりました。

学生時代の挫折と、チームでの関わりへの目覚め

 私自身がチームでの関わりのあり方を考えるようになった出発点は、埼玉県立大学に通っていた学生時代に経験したIP実習に近いワークショップにあります。
 その直前に、私はほとんど作業療法士の道を諦めるくらいの挫折を経験していました。3年次の実習で、作業療法における一通りの検査や測定を実際の患者さんを対象に行うというものがあったのですが、そこで私は患者さんの様子を考慮して一部の検査を行いませんでした。それはスーパーバイザーの先生にも了解を得てのことだったのですが、実習後の報告会では同級生たちから「検査なんだから一通りやらないと意味がない」と批判を受けてしまいました。
 今から思えば同級生たちの考えも正しいのですが、私はみんなに否定されたことがあまりにショックで、「今回の行為が間違いなら、私は作業療法士には向いていないから辞める!」とまで言い出してしまったんですね(笑)。
 そんな様子を見かねた恩師が「気分転換に参加してきなさい」と薦めてくれたのがみさと健和病院の臨床疫学研究所が主催していた対人援助のワークショップでした。
内容としては本当にIP実習に近いもので、さまざまな大学の学生がグループになって、あるケースに関わっている専門職の方にインタビューを行い、聞き出した内容を元にそのケースでの援助目標を考える、というものでした。
 そこで話の流れで、自分がショックを受けた実習の話をしたところ、グループのメンバーは「あなたは別におかしくないよ」「そういう考え方もあると思う」と言ってくれました。他学科の学生だったので受け取り方が違ったのかもしれませんし、私もある程度自分の考えを整理して話せたのかもしれませんが、とにかく認めてもらえたことが嬉しかったのを良く覚えています。
そのときに感じた「自分の意見をしっかり相手に伝える必要性」と、「他人の意見を尊重して共感することの大切さ」が、今の私のチームでの関わりへのスタンスの原点になっていると思います。

「スキル」なのか、それとも「人付き合い」なのか

 多職種連携をするということは、自分が進めたい物事に対して、ある意味では他人と交渉を積み重ねて合意を得ていく、ということでもあります。
 他の職種のスタッフに患者さんのことで相談をするときには、冷静に物事を考えて、言葉を選びながら意見を言う必要がありますし、その場でうまく伝わらなかったとしたら、一度持ち帰って改めて内容を整理して、どう表現すれば自分の意図がうまく伝わるのか、あるいは相手の意見と自分の意見をどうすり合わせていくか、といったスキルが必要になってきます。
 ただ、多職種連携におけるコミュニケーションは、スキルと呼べば理論として考えられますが、「人付き合いの仕方」として考えられないこともない、という難しさもありますね。すると途端に本人の人間性の問題に見えてきて、「結局のところ、私の人間性が不足しているっていうこと?」と深みにはまることになります。私が学生時代にショックを受けたのも、その方向にはまり込んでしまったからだと思います。
 現場での経験をある程度積んだ今の私としては、多職種連携を学べば学ぶほど、難しく考えるよりも日常生活のためのスキルに近いものとして捉えた方がうまくいくような感覚がありますね。人付き合いの範疇でしか考えられなかったことで失敗を経験して、一度専門的なスキルとして客観的に考え直すプロセスを経て、結局のところ人付き合いに近いのかもしれない、と一周回って思うようになったというところです。学べば学ぶほど、医療職というのは常に自分の価値観の転換を迫られる職業だなと思います。
 ですから、まだ現場に出ていない大学生が多職種連携について学ぶのは、実は難しいことなのかもしれません。むしろ学ぶというよりは、専門性も考え方も違う人間同士が、適切なファシリテートを受けることによって「お互いの違いを理解できるようになる」ことを体験して、多職種連携に対してポジティブなイメージを抱くことができればそれで十分意味があるのではないでしょうか。
私自身が学生時代に大きな気付きを得るきっかけになった内容でもありますし、学生たちにも是非良い経験をしてほしいと思います。