彩の国連携力育成プロジェクト [サイピー]

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2006年度IP演習報告

実施のねらい

 2006年9月19日から22日にかけて,埼玉県比企福祉保健総合センター・東松山保健所管内の各施設・機関において,専門職連携演習試行事業を実施しました.この専門職連携演習(インタープロフェッショナル演習:通称「IP演習」)は,2006年度入学生の4年次(平成21年度)に正式開講するものですが,今までにない新しい教育プログラムであることから,今後3年間試行的に実施し,授業内容を評価・構築していくものです.

 参加した学生は,看護・理学療法・作業療法・社会福祉の各学科の3~4年生の19人.学生たちは学科混合のグループを形成し,各演習機関の職員であるファシリテーター(学習促進者)の導きのもと,ご協力いただいた実際の患者・利用者の生活や援助課題から学びながら4日間を過ごしました.

 最終日には東松山市総合会館にて報告会を開催し,ご協力いただいた方々をはじめ,本学の教育に関心を持つ全国の様々な方々から参加をいただきました.

演習実施機関

 ○埼玉恵成会病院
 〇
介護老人福祉施設 東松山ホーム
 ○社会福祉法人昴 ハロークリニックなど
 ○東松山市総合福祉エリア
 ○東松山市立市民病院
 ○埼玉県比企福祉保健総合センター・東松山保健所(オリエンテーション)

福祉保健総合センターにてオリエンテーションの後,各演習機関へ

 IP演習の初日にあたる9月19日には,比企福祉保健総合センター・東松山保健所にて,オリエンテーションを実施しました.ここでは,演習期間中一緒に過ごすこととなる学生同士が初めて顔を合わせ,チーム作りを行ったほか,比企福祉保健総合センター計画推進担当部長の関根功氏より,比企地域の保健医療福祉サービスの特性について講義がありました.

 その後,バスなどで各演習機関に移動.同じ学校にいながらも,普段の授業ではあまり顔を合わせることのない学生同士が,援助が行われている実際の現場から学ぶIP演習がスタートしました.

 各演習機関では,ファシリテーターによって患者・利用者の方々の同意を頂いた上で,学生には疾病や生活状況の概要を伝達.学生グループは演習の目標にそって計画を立て,カルテの閲覧やご本人や家族へのインタビュー,援助を行っている様々な援助者へのインタビュー等を実施しました.それらを経て得られた情報について,チームメンバーで討議し,様々な角度から利用者・職種・援助方法の多面性を学びました.

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最終日には一般公開で報告会を実施

 IP演習最終日の22日には,東松山市総合会館にて,ファシリテーターや演習に協力していただいた方々,また一般の方の参加も得て,報告会を開催しました.各グループは,それぞれ取り組んだ患者・利用者の方々の状況や,援助の様子に触れ,またそれらの内容を知る過程の中で,学生間でどのようなディスカッションがあったのか,どのような相互作用があったのかについて報告しました.

 各グループのファシリテーターからも講評を頂き,参加した学生にとっては今後援助者になるにあたって大切にすべき理念や学習課題が得られたと思います.また,本学のIP演習のプログラムとしても,さらに重視すべき点や修正すべき課題を認識でき,非常に有意義な報告会となりました.

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各チームの報告内容

チーム1

 Aさんの援助目標を「安心できる在宅生活の支援」「Aさんらしい生き生きとした暮らしの支援」とし,生き生きとした在宅生活を送るためにどうしたらよいかを検討した.Aさんからニーズを引き出す工夫や近隣住民とのかかわり,地域の協力や精神的サポートについても計画を検討してIPWを体感した様子を発表した.

 施設ファシリテーターからは,学生達だけで援助計画を考えたことを評価,学生チームの様子が時間を追うごとに変化していく様子に驚きながら,「地域という言葉が出てきた時には感動した」とお話いただいた.
 会場から「自分はチームに貢献できたか」という質問に対しては,Aさんについてそれぞれの視点で考えたことを,貢献できたと感じている様子がうかがえた.

チーム2

 障害(身体,発達)をもつC君が,地域で生活をするための援助目標を「地域の保育園への就園」とし,経済的,医療的課題を念頭におきながら,環境整備や制度の利用,またどうしたらC君が保育園での集団生活,社会生活が送れるかを考えた援助計画を発表した.
 C君支援のIPWの体感から,医療,保健,福祉の多くの専門職連携が必要となると同時に,各部門のアプローチが重複し,はっきりとした役割分担をすることは難しいという気づきがあった.
 ファシリテーターからは,母親との短いインタビューでどんな情報が収集できるか心配したが,学生はスタッフからもいろいろ話を聞いて援助計画を作成し,人と人との繋がりの中で,1人の人を支援していく現場を体感できたのではないかとお話いただいた.

チーム3

 認知症があって施設に入所,「家に帰りたい」というEさんに対し,自分達には何ができるか,Eさんの秘めている可能性を引き出せる取り組みについてを検討し,援助計画のテーマを「あと一歩では!?」とした.声かけの工夫,居場所・存在意義,専門性と連携を活かしての情報収集と共有の具体策について報告した.

 チーム形成の過程で,最初は自分のことを素直に話せなかったり,自己表現が出来なかったり,専門にこだわりそうになったが,利用者あっての自分達だと気づき,Eさんにあわせた考え方にとチーム内が変化したことが発表された.

 また,専門性を認め合いながら利用者の可能性を引き出す大切さを感じたことが発表された.

 施設ファシリテーターからは,「連携は現場の課題であり,このチームも限られた時間の中で色々な検討がされ,学生には成果があったのではないか」とお話いただいた.

チーム4

 頸髄損傷受傷で入院中のDさんの退院に向けた援助目標を「本人,家族が自宅で安心して,その人らしく生活することができる」とし,援助計画は「排尿障害」「介護負担」「退院後の生活設計」「ADLの維持向上」についてチームの方針と具体策,アプローチを誰が行うかについて検討した内容を報告した.

 なぜ連携が必要なのかということについて,多くの課題をもつ患者に対し,1つの専門職だけでは限界があり解決につながらないこと,また価値観や方法に偏りが出ることも多職種で関わることにより包括的に患者をとらえ,解決策を見出すことができると発表した.

 施設ファシリテーターから,「短期間に莫大な情報をよくまとめて日に日に成長し,チームの他の専門を理解していなかったことや専門職として自分に何ができるかという気づきがあり,お互いを理解しあう大切さ,保健・福祉等制度の限界などにもよく気づいていた」と話された.

チーム5

 胸腰椎圧迫骨折により入院中のBさんの援助目標を「自宅で生活できる」とし,援助計画の方針を「身体面・精神面を考慮しつつ本人,家族の意向を最大限に取り入れる」とした.「退院のための援助」と「退院後を視野に入れた援助」に分けて課題をあげ,その経緯,専門職介入の具体策,地域の支援等に関するエコマップを示した.

 IPWとは専門性を活かしながら1人の援助をする運命共同体であり,そのためには,職種の理解を深め,信頼できる関係,専門性の確立が必要であるとした.

 目標設定の仕方について質問があり,最初に本人の意向を中心にしたゴールを考え,その後専門職の目標を設定し,最終的に共通目標を考えたことを述べた.

 ファシリテーターからは,理想と現実のギャップの悩みながら学生達自身で乗り越えていく様子をみて,介入を待つことの大事さを職場にも活かしたいと話された.